초밥 (chobap) — ご飯がなければ초밥ではありません
초밥
초밥 (chobap) は、酢と塩で味つけしたご飯を小さく握り、その上に魚をのせたり、のりや油揚げなどで包んだりして作る日本の料理、つまり英語でいう sushi を指す韓国語です。ところが韓国で、この言葉がいちばんよく飛び交う場所は、意外にも静かな高級和食店ではありません。夜の八時、近所のスーパーの惣菜コーナーの前です。店員さんがお弁当に値引きシールを貼りはじめると、人がそろそろと集まってきて、そこから「연어 초밥 아직 남았어? (yeoneo chobap ajik namasseo?/サーモンのお寿司、まだ残ってる?)」といった声が飛び出します。お昼のメニューを決めるとき、試験が終わって何を食べようか考えるとき、久しぶりに両親を連れて出かけるときにも、この単語はまず間違いなく登場します。
この単語の中心にあるのは魚ではなく 밥 (bap, ご飯) です。単語の成り立ちそのものがそうなっています。초 (cho, 醋=酢) + 밥 (bap, ご飯)、つまり「酢で味つけしたご飯」。名前がすでにご飯の話をしているわけです。ですから、下にご飯が敷かれていなければ、どんなに立派な魚がのっていても 초밥 とは呼びません。韓国語学習者がこの単語でいちばんよくつまずくのが、まさにこの点です。
초밥 は感情の乗らない、中立的なモノの名前です。単語そのものに敬意も見下しもないので、子どもに使っても目上の方に使っても大丈夫。敬意の差は、あくまで文の終わりで決まります。
韓国国立国語院の辞典で確かめる
초밥 「名詞」 酢と塩で味つけして小さく握った白いご飯に魚をのせたり、ご飯をのりや油揚げなどで包んだりして作った日本料理。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
同じ辞典が併記している多言語の対訳は次のとおりです。
- [英語] sushi; roll — A Japanese dish made by placing fish on a small ball of rice seasoned with vinegar and salt, or by wrapping the rice ball with dried laver, fried tofu, etc.
- [日本語] すし【鮨・寿司】 — 酢と塩で調味して小さく握った白いご飯に魚を載せたり、ご飯を海苔や油揚げなどで包んで作った日本料理。
- [スペイン語] sushi — Comida japonesa que se prepara formando una pequeña bola con arroz blanco cocido condimentado con vinagre y sal, y colocando encima algún tipo de pescado o enrollando el arroz con algas secas o tofu frito.
- [中国語] 寿司 — 在用醋和盐调味的小团米饭上面,放上生鱼片、紫菜、油豆腐等而做成的日本料理。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ポルトガル語の対訳はこの辞典には収録されていないため、以下は 私たちが独自に訳したもの であることをお断りしておきます(辞典からの引用ではありません): sushi — Prato japonês feito com uma pequena porção de arroz temperado com vinagre e sal, coberta com peixe ou envolvida em alga seca ou tofu frito.
語釈よりも値打ちがあるのは、辞典がいっしょに載せてくれている実際の用例です。この単語がどんな文の中で生きて動いているのか、五つだけ見てみましょう。
초밥 먹으러 가자. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
chobap meogeureo gaja —「お寿司、食べに行こう。」 → 友だち同士のタメ口です。たった五文字ですが、韓国語の会話でいちばんよく使われる型のひとつ。「名詞 + 먹으러 가자」はまるごと覚えてしまえば、김밥、삼겹살、냉면 とそのまま差し替えて使えます。
그 초밥 가게는 물이 좋은 생선들로 초밥을 만들어 맛있기로 유명했다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
geu chobap gageneun muri joeun saengseondeullo chobabeul mandeureo masitgiro yumyeonghaetda → ここで注目したいのは 물이 좋다 (muri jota) という言い回しです。直訳すると「水がいい」ですが、実際の意味は「魚が新鮮だ」。魚市場や刺身屋で店の人が「오늘 물 좋아요! (oneul mul joayo!)」と声を張り上げているのを聞いたら、それがこの表現です。
지수는 마트에서 다양한 종류의 생선 초밥을 하나씩 낱개로 샀다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
Jisuneun mateueseo dayanghan jongnyuui saengseon chobabeul hanassik natgaero satda → 冒頭でお話しした「スーパーの夜八時」の風景が、そのまま辞典の例文に入り込んでいます。낱개 (natgae) は「一個ずつばらで」という意味で、まとめ売りのパックの反対語です。
몇십 년 동안 초밥을 만들었다는 주방장이 대중으로 쥔 밥의 양은 항상 일정했다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
myeotsip nyeon dongan chobabeul mandeureotdaneun jubangjangi daejungeuro jwin babui yangeun hangsang iljeonghaetda → 대중으로 (daejung-euro) は「はかりを使わず目分量で」という意味の古くからある言葉です。お寿司を握る動作を韓国語では 쥐다 (jwida, 握る) / 쥐어 만들다 と表現する点も、あわせて覚えておきましょう。
점심에 먹은 초밥은 맛은 있는데 매운맛이 코를 너무 자극하는 것 같아. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
jeomsime meogeun chobabeun maseun inneunde maeunmasi koreul neomu jageukhaneun geot gata → わさびのツンとくる辛さの話です。韓国語ではこの感覚を舌ではなく 코 (ko, 鼻) で表すのが面白いところ。「코가 찡하다 (koga jjinghada)」「코를 자극한다 (koreul jageukhanda)」のように使います。
実際の会話で見てみる
場面:夜八時、近所のスーパーの惣菜コーナー。店員さんがお寿司のパックに30%引きのシールを貼りはじめたところ。
ジュンギョン: 왔다! 저기 봐, 지금 스티커 붙이신다. 来た! ほら見て、今シール貼ってるよ。
エミリー: 야, 연어 초밥 저거 하나 남았어. 빨리 가. ねえ、サーモンのお寿司、あれ一つしか残ってない。早く行って。
ジュンギョン: 모둠으로 가자, 모둠. 이게 더 낫지 않아? 盛り合わせにしようよ、盛り合わせ。こっちのほうがよくない?
エミリー: 난 됐어. 나 흰살 생선 별로거든. 너 그거 먹어. 私はいい。白身魚あんまり好きじゃないんだ。あんたがそれ食べて。
ジュンギョン: 그럼 반씩 나누자. 나 초밥은 무조건 두 개씩 먹어야 되는 사람이야. じゃあ半分ずつ分けよう。おれ、お寿司は絶対二個ずつ食べなきゃ気がすまない人だから。
エミリー: 그게 무슨 규칙이야. 알겠어, 대신 계산은 네가 해. 何なのそのルール。わかった、その代わり会計はあんたね。
こう使うと不自然です
초밥 はモノの名前なので、「失礼になる」ことはありません。その代わり、学習者がほぼ例外なく一度は経験する よくある勘違い を二つ取り上げます。
✗ (刺身屋でヒラメの刺身を一皿前にして)우와, 이 초밥 진짜 신선하다. ✓ (刺身屋でヒラメの刺身を一皿前にして)우와, 이 회 진짜 신선하다. → ご飯がなければ 초밥 ではありません。魚の身だけを薄く切って出したものは 회 (hoe)、その下に酢で味つけしたご飯が敷かれて、はじめて 초밥 (chobap) になります。単語の頭の 초 が酢を指しているのですから、名前そのものがご飯の存在を宣言しているわけです。
✗ 사장님, 초밥 두 그릇 주세요. ✓ 사장님, 초밥 2인분 주세요. / 모둠초밥 하나 주세요. → 초밥 は器によそう食べものではなく、お皿に一つずつ並べる食べものなので、「그릇 (器)」では数えません。人数で注文するときは 2인분 (i-inbun, 二人前)、一つずつ数えるときは 한 점 (han jeom) または 한 개 (han gae) を使います。
場面別の応用例文
① 会食のメニューを決める、午後四時のオフィス 刺身が苦手な人もいるかもしれないので、控えめに提案する場面です。
오늘 저녁은 초밥 어때요? 회는 못 드시는 분도 계실 것 같아서요. oneul jeonyeogeun chobap eottaeyo? hoeneun mot deusineun bundo gyesil geot gataseoyo 「今夜はお寿司はどうですか? 刺身が召し上がれない方もいらっしゃると思って。」
② スーパーの惣菜コーナーで店員さんに 一パックは多すぎて、何個かだけ買いたいときの実戦フレーズです。
저기요, 이 초밥 낱개로도 팔아요? jeogiyo, i chobap natgaerodo parayo? 「すみません、このお寿司、ばら売りもしていますか?」
③ 両親を連れて出かけるときに 同じ単語を敬語の文にのせると、こう変わります。
아버님, 이번 주말에 초밥 드시러 가실래요? abeonim, ibeon jumare chobap deusireo gasillaeyo? 「お父さん、今週末にお寿司を食べに行きませんか?」
敬語・タメ口と、似た表現
초밥 は名詞なので、単語そのものは変わりません。敬意の度合いは、いっしょに使う動詞と文末で決まります。
- タメ口: 초밥 먹으러 가자. (chobap meogeureo gaja)
- 敬語: 초밥 드시러 가실래요? (chobap deusireo gasillaeyo) — 먹다 が 드시다 に変わっているところに注目しましょう。
混同しやすい「ご近所さん」の単語を並べてみると、境目がはっきりします。
| 表現 | 温度・強さ | 使う場面 |
|---|---|---|
| 초밥 (chobap) | 中立・標準 | メニュー、看板、日常会話、どこでも |
| 스시 (seusi) | 少しおしゃれな響き | おまかせ・居酒屋の看板、若い世代の会話 |
| 회 (hoe) | 中立 | ご飯なしで魚の身だけを出すとき。刺身屋で |
| 유부초밥 (yubu-chobap) | 気楽で素朴 | お弁当・遠足・粉食店(분식집) |
| 모둠초밥 (modum-chobap) | 中立 | いろいろな種類を一皿で注文するとき |
文化背景 — スーパーの夜八時、値引きシール
초밥 は辞典の語釈が明かすとおり、まぎれもなく日本の料理です。けれども韓国語の中では、すでに完全に韓国のことばになっています。その証拠が単語の姿かたちです。韓国語は日本語の「すし」を音のまま受け入れるかわりに、초 (醋、酢) + 밥 (ご飯) という自前の名前を新しく作りました。材料の正体を前面に出して名づける、いかにも韓国語らしい命名法です。おかげで学習者は、単語を見ただけで「ああ、酢を入れたご飯なんだな」と分かってしまいます。
暮らしの中での居場所も広いです。お皿がくるくる回る回転寿司の店があり、専門店の 모둠초밥 があり、大型スーパーの惣菜コーナーのお弁当寿司があります。この三つは値段も雰囲気もまるで違うのに、韓国の人はぜんぶ同じ単語で呼びます。とくにスーパーのお寿司は、夕方を過ぎると値引きシールが貼られるので、仕事帰りにその前をうろうろするのは、韓国の都市生活ではとてもなじみ深い光景です。先ほどの会話が、まさにその場面でした。
韓国でいちばん愛されているのは、なんといっても 연어초밥 (yeoneo-chobap, サーモンの寿司) です。日本と違って、韓国のお寿司屋さんのメニューではサーモンがほぼ必ず先頭に来ます。そしてもうひとつ、유부초밥 (yubu-chobap, いなり寿司) は 초밥 の一種でありながら、韓国ではほとんど独立した別の食べもののように扱われています。遠足のお弁当、粉食店のラーメンセット、コンビニの棚で出会う、あの三角形や巾着型のご飯です。韓国の人にとって「초밥 먹었어」と「유부초밥 먹었어」は、まったく違う一日を描きます。前者は外食で、後者は遠足か、急いで済ませたお昼です。
ドラマでの 초밥 の登場のしかたも、かなり型が決まっています。いいことがあっておごる場面、あるいは「ごめん」と言えないまま、お寿司のお弁当をそっと机に置いていく場面です。少し値は張るけれど気を遣わせるほどではない食べものなので、「気持ちのしるし」にちょうどいいのです。だから韓国ドラマで誰かが黙ってお寿司を差し出したら、セリフがなくても、視聴者にはその人が何を言いたいのか分かります。
最後に、先ほど辞典の例文で出会った 물이 좋다 (muri jota) をもう一度覚えておきましょう。お寿司屋さんや魚市場でこの言葉が聞き取れたら、あなたの韓国語は教科書の外へ一歩踏み出したということです。
今日のクイズ
刺身屋に行ったら、友だちがお皿を指さしています。ご飯はなく、薄く切った魚の身だけがきれいに並んでいます。「이거 뭐야? (これ何?)」と聞いてくる友だちに、ふさわしい答えは?
① 초밥이야. ② 회야. ③ 유부초밥이야.
正解:② 회야. (hoeya)
ご飯が敷かれていないので 초밥 ではありません。초밥 の 초 は酢を意味し、その酢で味つけしたご飯があって、はじめて 초밥 になります。③ の 유부초밥 は魚ではなく、유부(油揚げ)の袋にご飯を詰めたものなので、なおさら違います。今日ひとつだけ持ち帰るなら、これです — ご飯がなければ 초밥 ではない。
この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。