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흑돼지 (heukdwaeji) — 済州に降り立ったら、観光地より先に決める名前

흑돼지

흑돼지 (heukdwaeji) は「毛が黒い豚」という意味です。文字だけを見れば色を表す言葉ですが、韓国でこの言葉が実際に登場する場面は、ほぼ決まっています — 済州島、そして夕食の食卓です。飛行機が済州空港に降りて荷物を受け取るやいなや、連れの誰かが「오늘 저녁은 흑돼지지? (oneul jeonyeogeun heukdwaejiji?)」と切り出します。旅行の予定表に、城山日出峰(성산일출봉)よりも先に書き込まれる名前が 흑돼지 だということも珍しくありません。

ですからこの単語には、辞書の意味と実際の使われ方のあいだに面白いズレがあります。辞書が指しているのは生きた動物ですが、会話に出てくる 흑돼지 は、たいてい お皿に載った肉 です。「흑돼지 먹으러 가자 (heukdwaeji meogeureo gaja)」と言われて、農場の豚を思い浮かべる人はいません。韓国語では、動物の名前がそのまま料理の名前になることがよくあります — 닭 (dak, 鶏)、오리 (ori, 鴨)、소 (so, 牛) もそうです。흑돼지 もその仲間に入ります。

ニュアンスもひとつ付いています。흑돼지 には 「ちょっと特別なもの」 という温度があります。ただの 삼겹살 (samgyeopsal) が平日の夜だとすれば、흑돼지 のほうは旅先での最初の一食、久しぶりに会う友だち、思いきった会食です。値段もたいてい高めです。だから「오늘은 흑돼지다 (oneureun heukdwaejida)」という一言には、ささやかな自慢と期待が一緒に乗っています。逆に「집 앞에서 흑돼지 먹었어 (jip apeseo heukdwaeji meogeosseo)」と言えば、聞いた人が「오, 웬일이야? (o, wenniriya?/え、どうしたの?)」と聞き返すくらいの重みはあります。

国立国語院の辞書で確かめる

흑돼지「명사」(名詞) 털이 검은색인 돼지. 毛が黒色の豚。 [en] black pig — A pig with black fur. [ja] くろぶた【黒豚】 — 黒毛の豚。 [es] cerdo negro — Cerdo con pelaje de color negro. [zh] 黑猪 — 毛色为黑色的猪。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

ポルトガル語訳は辞書に載っていません。ですからこの一行だけは、私たちが自分で訳したものです — porco preto(黒い毛を持つ豚)。辞書からの引用ではなく独自訳であることを明記しておきます。

辞書に載っている実際の用例を見ると、この単語がどんな文の中で生き生きと動くのかが、ずっとはっきりしてきます。

제주도에 왔으니 오늘 저녁은 흑돼지를 먹으러 가는 거 어때? (Jejudoe wasseuni oneul jeonyeogeun heukdwaejireul meogeureo ganeun geo eottae?) 済州島に来たんだから、今日の夕飯は黒豚を食べに行くのはどう? ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

旅行の初日、宿に荷物を置いてから出てくる、まさにあの一文です。「제주도에 왔으니 (Jejudoe wasseuni/済州島に来たのだから)」という前半が肝心なところ。흑돼지 という言葉が場所とどれほど固く結びついているかを、この一言が全部語ってくれます。ここでの 흑돼지 は動物ではなく メニュー です。

흑돼지는 제주도 기후와 풍토에 잘 적응해서 튼튼하다. (Heukdwaejineun Jejudo gihuwa pungtoe jal jeogeunghaeseo teunteunhada.) 黒豚は済州島の気候と風土によく適応していて丈夫だ。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

今度はまったく別の場面です。食卓ではなく、畜産やドキュメンタリー、教科書に出てくる文です。同じ単語が「食べるもの」と「飼う動物」のあいだを自由に行き来していることが分かります。ニュースや説明文で 흑돼지 に出会ったら、たいていはこちらの意味です。

토종 흑돼지의 수가 점점 줄어들고 있다. (Tojong heukdwaejiui suga jeomjeom jureodeulgo itda.) 在来種の黒豚の数がだんだん減っている。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

「토종 (tojong, 在来種)」という言葉が前に付いています。흑돼지 のなかでも、昔からその土地に住んでいた品種をとくに指すときの表現です。保存や絶滅といったテーマを扱う記事でよく見かける文の形です。

제주도는 흑돼지가 유명하다. (Jejudoneun heukdwaejiga yumyeonghada.) 済州島は黒豚が有名だ。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

韓国の人なら説明なしにうなずく一文です。地域と食べ物をひとつに結びつけるこの言い方は、ほかの土地にもそのまま使えます — 「춘천은 닭갈비가 유명하다 (Chuncheoneun dakgalbiga yumyeonghada/春川はタッカルビが有名だ)」「부산은 밀면이 유명하다 (Busaneun milmyeoni yumyeonghada/釜山はミルミョンが有名だ)」。A는 B가 유명하다 (A-neun B-ga yumyeonghada) という型をひとつ覚えておけば、旅先ごとに使い回せます。

흑돼지 삼겹살. (Heukdwaeji samgyeopsal.) 黒豚の三枚肉。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

メニューに実際に書かれている形です。흑돼지 は「品種」、삼겹살 は「部位」 — 二つをくっつけて初めて注文が完成する、という点を覚えておきましょう。あとの「こう使うと不自然です」でもう一度取り上げます。

実際の会話で見てみましょう

場面:済州旅行の初日の夜。黒豚の焼肉店に座ったところで、メニューを広げました。

ジュンギョン: 야, 여기까지 왔는데 오늘은 무조건 흑돼지지. おい、ここまで来たんだから、今日は絶対に黒豚だろ。

エミリー: 근데 나 아직도 잘 모르겠어. 그냥 삼겹살이랑 뭐가 달라? でも私、まだよく分からないんだけど。普通のサムギョプサルと何が違うの?

ジュンギョン: 씹는 맛이 달라. 더 두껍게 썰어 주고, 껍질도 붙어 있어. 噛みごたえが違うんだ。もっと厚く切ってくれるし、皮も付いてる。

エミリー: 아, 그래서 아까 사장님이 “흑돼지 두 근이요?” 하신 거구나. 근으로 파네? ああ、だからさっき店長さんが「黒豚を二斤ですか?」って聞いたんだ。重さで売ってるんだね?

ジュンギョン: 응, 제주는 근고기라고 해서 무게로 팔아. 그리고 저기 멜젓 보이지? 저기다 찍어 먹어야 진짜야. うん、済州では「クンコギ」といって重さで売るんだ。あと、あそこのメルジョッ(カタクチイワシの塩辛)見える? あれに付けて食べてこそ本物だよ。

エミリー: 어… 짤 것 같았는데, 고기랑 같이 먹으니까 딱이다. 내년에 또 오자, 흑돼지 먹으러. えっ…しょっぱそうだと思ったのに、お肉と一緒だとちょうどいい。来年もまた来ようよ、黒豚を食べに。

こう使うと不自然です

흑돼지 はモノ(動物)の名前なので、敬語の上下によって失礼になるような言葉ではありません。その代わり、学習者がよくつまずく 二つの誤解 を押さえておきましょう。

✗ 역시 흑돼지는 산에서 직접 잡은 게 최고지.(やっぱり黒豚は山で自分で獲ったのが最高だよね。) ✓ 역시 흑돼지는 제주 거가 최고지.(やっぱり黒豚は済州のが最高だよね。) → 흑돼지 は人が囲いの中で育てる家畜の豚です。山にすむ野生の豚は 멧돼지 (metdwaeji, イノシシ) で、まったく別の動物。ニュースで農作物被害や市街地への出没として登場するほうです。この二つを混ぜると、「養殖のサケを川で釣った」と言っているように聞こえてしまいます。

✗(焼肉店で)사장님, 흑돼지 하나 주세요.(すみません、黒豚をひとつください。) ✓(焼肉店で)사장님, 흑돼지 삼겹살 2인분 주세요. / 흑돼지 두 근 주세요.(すみません、黒豚の三枚肉を二人前ください。/黒豚を二斤ください。) → 흑돼지 は品種の名前なので、それだけでは注文になりません。部位(삼겹살・목살・오겹살)か量(2인분・두 근)を必ず添える必要があります。カフェで「豆をひとつください」と言うのに近い感じです。

場面別の使い方

① 済州旅行を前に、友だちと計画を立てるとき

韓国の友だちに旅行の日程を聞くと、十中八九、最初の一食の話から始まります。

  • 제주 도착하는 날 저녁은 흑돼지로 예약해 둘까? (Jeju dochakhaneun nal jeonyeogeun heukdwaejiro yeyakhae dulkka?) — 済州に着く日の夜は、黒豚で予約しておこうか? 「~로 예약하다」はメニューを決めて席を押さえておく、という意味です。人気の黒豚店は実際に予約が必要なところが多くあります。

② 店でほかの肉と比べながら選ぶとき

メニューに黒豚と普通の豚が並んで書かれていて、値段の差が目に見える場面です。

  • 흑돼지가 좀 비싸긴 한데, 여기까지 왔으니까 이걸로 하자. (Heukdwaejiga jom bissagin hande, yeogikkaji wasseunikka igeollo haja.) — 黒豚はちょっと高いけど、ここまで来たんだからこれにしよう。 「~긴 한데」は、短所を認めたうえで結論をひっくり返す言い方です。黒豚を注文するときにもっともよく使われる文の形、と言ってもいいくらいです。

③ 旅行が終わって感想を話すとき

ソウルに戻って、同僚に旅の話を聞かせる場面です。

  • 다른 건 몰라도 흑돼지는 진짜 다르더라고요. (Dareun geon mollado heukdwaejineun jinjja dareudeoragoyo.) — ほかはどうあれ、黒豚は本当に違いましたよ。 「-더라고요」は、自分で experience して分かったことを伝えるときの丁寧な語尾です。旅行の感想にぴったりです。

敬語・タメ口と似た表現

흑돼지 そのものは名詞なので、敬語・タメ口の形が別にあるわけではありません。丁寧さの度合いは、いつも 後ろに付く動詞 が決めます。

  • タメ口: 흑돼지 먹으러 가자. (Heukdwaeji meogeureo gaja./黒豚を食べに行こう。)
  • 敬語: 흑돼지 먹으러 가시겠어요? (Heukdwaeji meogeureo gasigesseoyo?/黒豚を食べに行かれますか?)
  • とても丁寧に: 저녁은 흑돼지로 모실까 합니다. (Jeonyeogeun heukdwaejiro mosilkka hamnida./夕食は黒豚でご案内しようかと思います。)

混同しやすいご近所の単語は、次のように分かれます。

表現温度・強さ使う場面
흑돼지 (heukdwaeji)中立+ちょっと特別済州旅行・焼肉店のメニュー・産地表示
삼겹살 (samgyeopsal)もっとも日常的部位の名前。品種に関係なくどこでも
오겹살 (ogyeopsal)中立、やや専門的皮まで付いた三枚肉。済州の黒豚店でよく見る
멧돼지 (metdwaeji)野生的で荒々しい感じ山・ニュース・農作物被害の記事。店のメニューではない
백돼지 (baekdwaeji)対比用の専門語흑돼지 と比べるときだけ登場。日常会話ではほぼ使わない

文化背景 — 済州で黒豚が特別な理由

単語をばらしてみると、つくりはとても単純です。흑 (heuk, 黑) は「黒」を表す漢字で、돼지 (dwaeji) は固有語。漢字ひとつ+固有語ひとつという形ですが、同じ作り方の言葉が韓国語にはずらりとあります — 흑염소 (heugyeomso, 黒ヤギ)흑설탕 (heukseoltang, 黒砂糖)흑임자 (heugimja, 黒ごま)。「흑-」が前に付くと「色が黒い」という意味になる、とまとめて覚えておけば、単語をいくつも一度に手に入れられます。

済州で黒豚が特別になったのには理由があります。辞書の用例にもあったとおり、黒豚は済州の気候と風土によく適応して長くこの土地で育てられてきましたし、済州在来の黒豚は2015年に天然記念物にまで指定されました。観光地のキャッチコピーである以前に、地域の長い畜産の歴史が下敷きになっている名前だ、ということです。

食べ方にも済州ならではの文法があります。ひとつめは 근고기 (geungogi, クンコギ) — 一人前という単位ではなく「一斤(600g)」単位で重さを量って売ります。だから注文するときに「두 근이요 (du geuniyo/二斤ください)」という言葉が出てくるのです。ふたつめは 멜젓 (meljeot, メルジョッ) — カタクチイワシの塩辛を鉄板の端でぐつぐつ煮立てておき、焼けた肉をそこに付けて食べます。初めての人はしょっぱさに驚きますが、脂ののった肉と出会うとバランスが取れます。三つめは、皮をはがさずに一緒に焼くこと。そのため、メニューに 삼겹살 ではなく 오겹살 と書いてある店が多いのです。

韓国のバラエティ番組や旅ドラマで済州編が始まると、ほとんど公式のように繰り返される場面があります。レンタカーを受け取り、宿に荷物を放り込んで、日が暮れる前に鉄板の前に座る。セリフをそのまま写さなくても、流れはいつも同じです — 誰かが「제주 왔는데 이건 먹어야지 (Jeju wanneunde igeon meogeoyaji/済州に来たんだから、これは食べなきゃ)」と言い、残りが笑いながらついていく。だからこの単語を身につけるというのは、肉の名前をひとつ覚えることではなく、韓国の人が旅を始めるときのやり方をひとつ理解することに近いのです。

外国人の旅行者なら、これひとつ覚えておけば十分です。済州で夕食をどこにするか迷ったとき、韓国の友だちに「흑돼지 어때요? (Heukdwaeji eottaeyo?/黒豚はどうですか?)」と聞けば、会話の半分はもう片付いたも同然です。

今日のクイズ

済州の焼肉店に座りました。店長さんが「뭐로 드릴까요? (何になさいますか?)」と聞いてきます。もっとも自然な答えは?

  1. 흑돼지 하나 주세요.(黒豚をひとつください。)
  2. 흑돼지 삼겹살 2인분 주세요.(黒豚の三枚肉を二人前ください。)
  3. 멧돼지 2인분 주세요.(イノシシを二人前ください。)
  4. 검은 돼지 잡아 주세요.(黒い豚をつぶしてください。)

正解:2番

흑돼지 は品種の名前なので、それだけ言っても注文は終わりません(1番)。部位の 삼겹살 と量の 2인분 を添えて、はじめて文が完成します。3番の 멧돼지 は山にすむ野生のイノシシなので、店で出てくるはずがありません。4番は意味は通じますが、品種名ではなく色の説明なので、店では使わない言い方です。済州流にもう一歩進みたいなら、「흑돼지 두 근 주세요 (heukdwaeji du geun juseyo)」 も一緒に覚えておきましょう。


この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。