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귀성길 (gwiseonggil) — 八時間かけてでも帰る道

귀성길

귀성길 (gwiseonggil) とは、名節(ソルラルやチュソクといった韓国の伝統的な祝日)に、故郷にいる両親に会うために帰っていく道のことです。ソルラルやチュソクが近づくと、韓国のニュースは何日も前から同じ映像を流します。ヘリコプターから見下ろした高速道路が赤いテールランプで地平線までつながっていて、画面の下には「귀성길 정체 절정(帰省ラッシュがピーク)」という字幕が出ています。普段なら三時間で着く距離を八時間、九時間もかけて這うように進みながら、それでも人々はどうしてもその道に出るのです。

ですから귀성길は、単なる移動経路の名前ではありません。年に二度、国じゅうが同じ方向へ動く、その数日間の名前に近いものです。韓国語を学んでいる人が名節の頃に韓国にいると、この単語を一日に何度も耳にすることになります。ニュースでも聞きますし、会社の同僚の「언제 내려가?(いつ帰るの?)」という問いかけの中にも出てきます。

意味をもう少し細かく分けてみましょう。この言葉が成り立つには、条件が三つ付きます。一つ目、行き先が故郷であること。釜山へ出張に行く道は、どんなに渋滞していても귀성길ではありません。二つ目、方向が「下って行く」側であること。韓国語では、故郷へ向かうことを地図上の位置に関係なく「내려가다 (naeryeogada、下って行く)」と言い、戻ることを「올라오다 (ollaoda、上って来る)」と言います。三つ目、名節かそれに準じる時期であること。ふつうの週末に実家へ行って帰ってくることを귀성길とは呼びません。

温度感はほぼ中立ですが、少しだけ格式が混じっています。新聞やテレビが好んで使う言葉なので文章語の匂いがわずかにあり、そのぶん友だち同士の気楽な会話では 집에 내려가다 (jibe naeryeogada) のほうがずっとよく使われます。ただ、格式があるといっても堅苦しい言葉ではありません。むしろこの単語には、しんどさと愛おしさが一緒に入っています。渋滞の道の上で過ごす八時間を、人々があえて引き受ける理由が、そこに込められているからです。

実際の会話で見てみましょう

状況:チュソク連休の前日の夕方、高速バスターミナルの待合室。電光掲示板には「売り切れ」の表示がずらりと並んでいる。

ジュンギョン: 야, 표 겨우 구했다. 밤 열한 시 차. おい、チケットやっと取れたよ。夜十一時のバス。

エミリー: 헐, 밤 열한 시? 귀성길 진짜 장난 아니네. えっ、夜の十一時?帰省ラッシュ、ほんとにハンパじゃないね。

ジュンギョン: 명절엔 늘 이래. 평소 세 시간이면 갈 길을 여덟 시간 걸려서 가. 名節はいつもこうなんだ。普段なら三時間で行ける道を、八時間かけて行くんだよ。

エミリー: 그럼 연휴 끝나고 가면 안 돼? 나 같으면 그냥 미룰 것 같은데. じゃあ連休が終わってから行けばいいんじゃない?私だったら後回しにしちゃうかも。

ジュンギョン: 그게 안 되지. 엄마가 새벽부터 전 부치고 기다리시는데. それは無理だよ。母さんが明け方からチヂミを焼いて待ってるんだから。

エミリー: 아… 그래서 다들 그 고생을 하면서도 귀성길에 오르는 거구나. ああ…だからみんな、あれだけ苦労してでも帰省の途につくんだね。

こう使うと不自然です

✗(出張に行く同僚に)부산 귀성길 조심히 다녀오세요. ✓(出張に行く同僚に)부산 출장 조심히 다녀오세요. → 귀성길は「故郷の両親に会いに行く道」だけを指します。行き先が故郷でなければ、どんなに遠い道のりでも、ただの「가는 길(行く道)」です。旅行や出張に付けてしまうと、聞いた人が一瞬「あれ?」と止まってしまいます。

✗(連休の最終日、故郷からソウルへ戻りながら)이제 귀성길 막히겠다, 얼른 출발하자. ✓(連休の最終日、故郷からソウルへ戻りながら)이제 귀경길 막히겠다, 얼른 출발하자. → 下って行く道が 귀성길 (gwiseonggil)、戻って上って来る道が 귀경길 (gwigyeonggil) です。韓国の人はこの二つを方向で自動的に区別しているので、入れ替えて使うと一瞬、方向感覚が混乱します。ニュースでも、連休の前半は귀성길、後半は귀경길と正確に使い分けています。

場面別の活用例文

1. 名節の前、会社で同僚と

저는 내일 오후에 귀성길에 오를 예정이에요. 새벽에 출발하면 좀 낫다던데요. jeoneun naeil ohue gwiseonggire oreul yejeongieyo.

「귀성길에 오르다」は、この単語といちばんよく一緒に使われる相棒です。「길에 오르다」は旅路に出るという意味なので、ただ「간다(行く)」と言うより少し重みが加わります。会社で上司に連休の予定を伝えるときに、ちょうどいい程度の格式です。

2. 渋滞に閉じ込められた車の中で、家族と

귀성길이 이렇게 막힐 줄 알았으면 그냥 기차 탈걸. gwiseonggiri ireoke makil jul arasseumyeon geunyang gicha talgeol.

「-ㄹ걸」は、過ぎた選択を後悔するときに使う語尾です。道路の上で韓国の人がいちばん多く口にする言葉のひとつでもあります。名節の渋滞は毎年繰り返されるのに、毎年この一文が出てきます。

3. 久しぶりに連絡した友だちに

이번 설엔 귀성길 포기했어. 표가 하나도 없더라. ibeon seoren gwiseonggil pogihaesseo. pyoga hanado eopdeora.

タメ口で使うと、こんなふうに軽くなります。後ろに「-더라」を付けて、自分が直接経験したことを伝える感じを出しています。名節に故郷へ帰れない事情を話すときによく使う表現です。

敬語・タメ口と似た表現

귀성길は名詞なので、それ自体に敬いの意味は含まれていません。敬語とタメ口の違いは、後ろに付く述語のほうで分かれます。目上の人には 귀성길에 오르다 (gwiseonggire oreuda) のように少し格式のある組み合わせを、友だちには 내려가다 (naeryeogada) を使うと自然です。似た表現と並べてみると、こうなります。

表現温度・強さ使う場面
귀성길 (gwiseonggil)中立、少し格式あり。ニュース調名節の交通・移動の話。日常会話でも使う
귀경길 (gwigyeonggil)中立、少し格式あり連休が終わって戻る道。方向が反対
고향 가는 길 (gohyang ganeun gil)やわらかく叙情的名節でなくてもよい。感傷的な文章や語り
집에 내려가다 (jibe naeryeogada)いちばん口語的で気楽友だち・家族同士。名節でなくても使う

表を見ると分かるように、귀성길と귀경길は意味の似た言葉ではなく、方向が正反対のペアです。この二つをセットで覚えておくと、名節のニュースが丸ごと聞き取れるようになってきます。一方「집에 내려가다」は名節という条件がないぶん、ずっと広く使えます。学習者にとって、実際の使用頻度がいちばん高いのもこちらです。

文化背景 — 帰って、確かめに行く道

귀성(歸省)は漢字語です。「帰る」を意味する歸に、「省みる・見て確かめる」を意味する省を書きます。文字どおり移せば「帰って省みる」ですが、ここで確かめる対象は両親の安否です。つまりこの単語の根っこには、「道」よりも「両親が元気でいるかを自分の目で確かめる」という行いが置かれているわけです。ここに固有語の「길(道)」が付いて 귀성길 になりました。ペアをなす귀경(歸京)の京は、ソウルを指す文字です。故郷から再びソウルへ戻る道、という意味がそのまま込められています。

この単語がとりわけ重く響くのには理由があります。韓国では20世紀後半、人々が仕事を求めて大都市に集まったことで、親の世代は地方に残り、子の世代はソウルと首都圏に住む、という構造が固まりました。だから名節になると、何千万人もの人が同時に同じ方向へ動きます。この現象を韓国のメディアは 민족 대이동 (minjok daeidong、民族大移動) と呼びます。少し大げさな表現に聞こえますが、実際その数日間、ソウルの都心は目に見えて静かになり、高速道路のサービスエリアは午前三時でも人でごった返します。

韓国のドラマや映画に名節の場面がよく出てくるのも、このためです。家族全員が一つの場所に集まるので、対立も和解もその場で噴き出します。ただ、そうした場面の始まりは、たいてい食卓ではなく道路の上です。渋滞にはまった車内で夫婦が神経戦を繰り広げたり、両親への贈り物を置いてきたことに気づいたり、といった場面ですね。귀성길は、それ自体が物語の始まる舞台になっているのです。

最近は風景が少しずつ変わってきています。親のほうがソウルの子どもの家へ上ってくる 역귀성 (yeokgwiseong、逆帰省) という言葉が生まれ、連休を海外旅行で過ごす人も増えました。故郷に帰らないことに肩身の狭い思いをさせる空気も、以前より薄くなっています。それでも、名節前夜のターミナルの待合室を埋め尽くす人々、手に提げた果物の箱とリュックは今も変わりません。귀성길という単語が、まだ力を失っていない理由です。

今日のクイズ

チュソク連休の最終日の午後、故郷からソウルの家へ戻る高速道路の上です。ラジオの交通情報では、どんな言葉が流れるでしょうか。

① 지금 귀성길 정체가 절정입니다 ② 지금 귀경길 정체가 절정입니다 ③ 지금 출근길 정체가 절정입니다

正解は②です。故郷へ下って行く道が귀성길、再びソウルへ上って来る道が귀경길。連休の最終日はみんなが帰ってくる日なので、ラジオは귀경길の渋滞を知らせます。方向で覚えましょう。下れば귀성、上れば귀경です。

この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。