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막차 (makcha) — 深夜0時前の十分間、そして最後のチャンス

막차

막차 (makcha) は「その日最後に運行される車」という意味です。夜11時半、飲み会の席で誰かが急に携帯を取り出して時間を確かめ、がばっと立ち上がる。その人の口から出てくる言葉は、ほぼ決まっています ——「나 막차 타야 돼 (na makcha taya dwae)(終電に乗らなきゃ)」。韓国ドラマを見ていると、ホームで列車のドアが閉まる場面と一緒にこの単語がよく飛び出してきますが、その瞬間の焦りまで丸ごと抱えている言葉が、まさに 막차 (makcha) です。

意味だけ見れば単純な名詞です。バスや地下鉄、列車のうち、その日最後に走る車。でも実際の会話で、この単語は時刻の情報以上のものを運びます。막차 (makcha) という言葉が出た瞬間、その場は「終わりに向かう場」に変わります。もっと遊びたくても、もう腰を上げなければいけないし、上げられなければタクシー代を覚悟することになる。だから韓国で막차は、時刻表の言葉であると同時に締め切りの言葉でもあります。一日が実際に終わる地点を知らせてくれる合図に近いのです。

温度は中立です。敬語の場でもタメ口の場でもそのまま使えますし、かしこまった会議の席で「막차 시간이 있어서 먼저 일어나겠습니다 (makcha sigani isseoseo meonjeo ireonagetseumnida)」と言っても、まったく不自然ではありません。むしろ韓国の職場文化では、막차は席を立つための一番無難で正当な理由として通ります。これに文句をつける人はいません。

国立国語院の辞書で確かめる

막차「名詞」 그날 마지막으로 운행되는 차. (その日最後に運行される車) [en] last bus; last train — The last bus or train for the day. [ja] しゅうしゃ【終車】 — その日の最後に運行される車。 [es] último transporte — Último transporte que opera en un día. [zh] 末班车 — 当天的最后一班车。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

ポルトガル語の語釈は、この辞書には収録されていません。以下は辞書からの引用ではなく、わたしたちが独自に訳したものです —— último transporte: o último ônibus ou trem que circula no dia.

辞書に載っている実際の用例を、ひとつずつ見ていきましょう。短いですが、この単語がどんな文の型に乗るのかが全部詰まっています。

막차가 끊어지다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

막차가 끊어지다 (makcha-ga kkeuneojida) ——「終電がなくなる」。막차といちばんよく連れ立つ述語が「끊어지다(切れる)」です。車が「なくなった」のではなく「切れた」と表現するのが面白いところで、自分と家をつないでいた線がぷつりと断たれた、という絵ですね。実際の会話では「끊기다 (kkeungida)」と言うほうが多いです。

막차 시간이 지났네. 어떻게 하지? 갈 데도 없고. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

막차 시간이 지났네 (makcha sigani jinatne) ——「終電の時間、過ぎちゃったな」。ひとりごとに近い文です。時計を見て状況に気づく瞬間と、そのすぐあとに来る途方に暮れた感じまでが、ひとかたまりでくっついています。「갈 데도 없고(行くあてもないし)」が、この単語の情緒を正確に見せてくれます —— 終電を逃した人に残るのは、選択肢が消えたという感覚なのです。

막차를 놓치다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

막차를 놓치다 (makcha-reul nochida) ——「終電を逃す」。「끊어지다」が車の側の事情なら、「놓치다」はこちら側の失敗です。ぐずぐずしていたか、「もう一杯だけ」という誘いに負けたか。だからこの表現には、少しの自責が混ざります。

저 버스가 막차인데 놓쳤으니 어떻게 하지? ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

저 버스가 막차인데 (jeo beoseu-ga makcha-inde) ——「あのバスが最終なのに」。目の前で去っていく車を指しながら言う言葉です。「A가 막차다」のように特定の車両を名指しする言い方も自然だ、ということを示しています。

막차로 떠나다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

막차로 떠나다 (makcha-ro tteonada) ——「終列車で発つ」。ここでは막차が手段です。助詞「로」が付くと「その車に乗って」という意味になります。小説やドラマのナレーションで、夜行列車に乗って街を去る場面によく似合う、文語的な表現ですね。

実際の会話で見てみる

状況:金曜の夜11時50分、会食が終わって地下鉄のホーム。電光掲示板に到着案内が点滅しています。

ジュンギョン: 어, 이거 막차 아니야? 전광판에 그렇게 떴는데. あれ、これ終電じゃない? 掲示板にそう出てたけど。

エミリー: 맞네. 나 저번 주에도 막차 놓쳐서 택시비 삼만 원 나갔잖아. ほんとだ。わたし先週も終電を逃して、タクシー代3万ウォン飛んだんだよ。

ジュンギョン: 삼만 원? 야, 그냥 심야버스 타지 그랬어. 3万ウォン? もう、深夜バスに乗ればよかったのに。

エミリー: 정류장 찾다가 그것도 놓쳤어. 그날 진짜 별 보면서 걸었다. 停留所を探しているうちに、それも逃した。あの日はほんとに星を見ながら歩いたよ。

ジュンギョン: 아이고… 오늘은 무조건 타자. 부장님한테 인사는 했지? あーあ……今日は絶対に乗ろう。部長さんにあいさつはした?

エミリー: 했어, 했어. 근데 우리 막차에서까지 회사 얘기 하는 거 아니다? したした。でもさ、終電の中でまで会社の話はなし、ね?

こう使うと不自然です

✗ 오늘 막차 놓쳐서 인천공항에서 밤새웠어. ✓ 오늘 마지막 비행기 놓쳐서 인천공항에서 밤새웠어. → 막차の「차」は、地面を走る車のことです。バス・地下鉄・列車・タクシーまではOKですが、飛行機には使いません。船は「막배 (makbae)」と呼ぶこともありますが、飛行機はそのまま「마지막 비행기(最後の飛行機)」とかみ砕いて言います。

✗ (승진하신 부장님께) 부장님, 이번에 막차 타셨네요. ✓ (동기에게) 야, 너 이번에 막차 탔다. 운 좋았네. → 「막차를 타다」が比喩で使われると、「ぎりぎりのところで最後のチャンスをつかんだ」という意味になります。実力ではなく運で通った、という響きになるので、目上の人に使うとお祝いではなく傷になってしまいます。目上の方には「축하드립니다 (chukhadeurimnida)」のひと言が安全です。

場面別の活用例文

1) 飲み会でそっと席を立つとき

雰囲気はいいのに、時計は11時半を指している。こんなとき韓国の人が使う、いちばん無難な退場のセリフです。

나 막차 시간 다 됐어. 먼저 일어날게. (na makcha sigan da dwaesseo. meonjeo ireonalge.) 終電の時間になっちゃった。先に失礼するね。

2) すでに手遅れで、友だちにSOSを送るとき

逃したあとの文です。タクシー代を浮かせたいなら、早く言うに限ります。

막차 끊겼어. 너희 집에서 하루만 자도 돼? (makcha kkeunkyeosseo. neohui jibeseo haruman jado dwae?) 終電なくなっちゃった。一晩だけ泊めてくれない?

3) 会社の会食で敬語を使うとき

同じ理由を、かしこまって伝える言い方です。この文は上司の前でもそのまま通用します。

죄송한데 막차 시간이 있어서 먼저 가 보겠습니다. (joesonghande makcha sigani isseoseo meonjeo ga bogetseumnida.) すみません、終電があるので先に失礼いたします。

敬語・タメ口と、似た表現

막차そのものは名詞なので、尊敬形が別にあるわけではありません。敬語とタメ口は、後ろに付く語尾だけで分かれます ——「막차 끊겼어」(タメ口)と「막차가 끊겼습니다」(敬語)のように。まぎらわしいご近所の単語と並べてみると、こんな感じです。

表現温度・強さ使う場面
막차 (makcha)中立+少しの焦り日常会話全般。敬語・タメ口どちらも
첫차 (cheotcha)中立。막차の反対語早朝の始発。「첫차 타고 갈게」
마지막 차 (majimak cha)説明的で、かみ砕いた感じ公式の案内文、外国人に意味を説明するとき
막판 (makpan)緊張感が強い試合や仕事の最終局面。車とは無関係
심야버스 (simya beoseu)情報を伝えるだけ。感情はなし終電がなくなったあとの代案を話すとき

とくに「마지막 차」と「막차」の違いは、覚えておくと役に立ちます。意味は同じでも、「마지막 차」は説明で、「막차」は生活の言葉です。友だちに「마지막 차 타야 돼」と言えば通じはしますが、どこか翻訳調に聞こえてしまいます。

文化背景 —— 深夜0時前の十分間

막차の「막-」は、「마지막(最後)」を意味する接頭辞です。막내(いちばん最後に生まれた子)、막판(最後の局面)、막바지(最後の山場)が同じ家族。だからこの一文字を知っておくと、単語ひとつでいくつも手に入ります。

ソウルの地下鉄は、だいたい0時前後に終電がなくなります。路線や方向によって違いますが、夜11時を過ぎると、人々はひとり、またひとりと携帯で到着情報を確認しはじめます。この10分から20分のあいだが、韓国の夜の文化では妙にドラマチックな区間です。ここで人は二種類に分かれます。腰を上げる人と、「오늘은 그냥 새벽까지 가자(今日はもう朝まで行こう)」と言う人。後者のためにソウルには、0時以降も走る深夜バス(Nで始まる路線)があり、24時間開いているカフェやチムジルバンがあります。終電を逃した人にも行き場所がある、ということ自体が、韓国の都市生活のひとつの風景なのです。

韓国のドラマや映画がこの単語を愛する理由も、ここにあります。ホームでドアが閉まり、ガラス越しにひとりだけが残る場面。セリフがなくても、関係が終わったのか、それとも始まったのかを見せることができます。ロマンスのジャンルでは、막차をわざと見送るという選択が、告白より強いセリフの役割を果たします —— 家に帰る手段を自分から消してしまった人は、もう答えを出したのと同じですから。

そして、さきほど見た比喩がもうひとつ。不動産が値上がりする直前にどうにか家を買った人、締め切り直前に願書を出した人に「막차 탔다」と言います。安堵と羨望と、ほんの少しの妬みが一度に込められた言葉なので、人に対して使うときは、相手と場をひととおり見てからにするほうがいいでしょう。

今日のクイズ

夜11時50分、友だちとお酒を飲んでいます。携帯を見ると、家に帰る地下鉄がもうすぐなくなりそう。席を立ちながら言える、いちばん自然なひと言は?

  1. 나 첫차 타야 돼. 먼저 갈게.
  2. 나 막차 시간 다 됐어. 먼저 갈게.
  3. 나 막판 놓치겠다. 먼저 갈게.
  4. 나 마지막 비행기 끊기겠다. 먼저 갈게.
答えを見る

正解:2番。 막차 시간 다 됐어 (makcha sigan da dwaesseo) が、この場面の正解です。1番の「첫차」は明け方に最初に走る車なので正反対、3番の「막판」は試合や仕事の最終局面を指すので交通手段には使いません。4番は、地下鉄を飛行機に取り替えてしまった文ですね。

今夜、韓国ドラマを見ていて誰かが時計を見ながら席を立ったら、その人が何と言うか耳を澄ませてみてください。たぶん、막차 (makcha) でしょう。


この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。