잡채 (japchae) — お祝いの日、食卓の真ん中に置かれる名前
잡채
잡채 (japchae) は、いろいろな野菜と肉を細く切って油で炒め、それを春雨と混ぜて作った料理、という意味です。韓国人の家の玄関を開けたとき、ごま油と醤油の混ざった匂いがふわっと押し寄せてきたら、その日はたいてい普通の日ではありません。引っ越し祝いか、名節(旧正月やお盆などの祝日)か、久しぶりに誰かが訪ねてくる日です。そしてその匂いの正体は、十中八九 잡채 (japchae) です。
韓国語を学ぶ人は、この単語をだいたい「春雨で作った炒め麺」くらいに覚えて通り過ぎます。間違いではありません。でも、そう覚えるだけでは、韓国人がこの単語を口にするときになぜ少しだけ表情が明るくなるのか、その理由までは説明できません。
まずは名前から見てみましょう。잡채の「잡」は混ぜるという意味の雜、「채」は野菜・ナムルを指す菜です。文字どおり「いろいろなものを混ぜたナムル」という意味で、作り方もまさにその名前のとおりです。ほうれん草は別、にんじんは別、玉ねぎは別、きのこは別、肉は別 — 材料ごとに色と食感が死なないように別々に炒めておいて、茹でて味つけした春雨と一緒に大きなボウルに入れ、最後に手で混ぜます。フライパン一つで終わる料理ではないのです。
だからこの単語には、語釈には書かれない情報がもう一つくっついています。「誰かが自分のために時間を使った」 という情報です。ラーメンやチャーハンはお腹が空いたから作りますが、잡채は人が来るから作ります。韓国ドラマで잡채を盛った大皿が食卓の真ん中に置かれる場面がよく出てくるのも、そのためです。あの皿は料理であると同時に、「今日は特別な日です」という字幕の役割を果たしているわけです。
国立国語院の辞書で確かめる
まずは国の機関である国立国語院の『韓国語基礎辞典』が、この単語をどう説明しているかをそのまま引いてみます。
잡채 (名詞) 여러 가지 채소와 고기 등을 가늘게 썰어 기름에 볶은 것을 당면과 섞어 만든 음식. いろいろな野菜や肉などを細く切って油で炒めたものを、春雨と混ぜて作った料理。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
同じ辞書が載せている多言語の対訳はこうなっています。
[英語] japchae — A Korean dish made by mixing sweet potato noodles with thin slices of stir-fried various vegetables, meat, etc. [日本語] チャプチェ — 千切りにした肉や種々の野菜などを油で炒めたものを春雨に混ぜて作った料理。 [スペイン語] japchae, plato de fideo de patata en polvo con verduras y carnes — Comida mixta con fideo de patata en polvo y varias verduras y carnes que se cortan delgadamente y se tuestan en aceite. [中国語] 什锦炒粉条,什锦大杂烩 — 将各种蔬菜和肉类等食材切丝后在油锅里炒熟,再放入粉条拌匀而成的食物。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
(ポルトガル語の対訳は、この辞書には収録されていません。参考までに訳すなら japchae, prato coreano de macarrão de batata-doce com legumes e carne salteados といったところですが、この一行は辞書からの引用ではなく、わたしたちが独自に付けた訳です。)
四つの言語の語釈を並べてみると、共通点が見えてきます。どの言語でも「麺料理(noodle dish)」とは言い切らず、「細く切って」「油で炒めた」「混ぜて作った」 という三つの動作を必ず入れているのです。つまりこの単語の核心は、材料ではなく下ごしらえのやり方にある、ということですね。
では、同じ辞書に載っている実際の用例を見てみましょう。
저녁 때 손님이 오신다고 불고기에다가 잡채까지 준비하게요? (jeonyeok ttae sonnimi osindago bulgogi-edaga japchae-kkaji junbihageyo?) 夕方にお客さんが来るからって、プルコギに加えて잡채まで用意するんですか? ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
この一文に、잡채の社会的な立ち位置がすべて入っています。「불고기에다가 잡채까지(プルコギに加えて잡채まで)」という言い方は、食卓の格を一段上げるという意味ですし、文末の「-게요?」には「そこまでするんですか?」という驚きが混ざっています。잡채が手間のかかる料理だということを、話し手と聞き手がすでに共有していないと成り立たない文なのです。
어머니는 몇 가지 채소와 고기를 넣어서 고추잡채를 만들어 주셨다. (eomeonineun myeot gaji chaesowa gogireul neoeoseo gochujapchaereul mandeureo jusyeotda.) 母は何種類かの野菜と肉を入れて、고추잡채を作ってくれた。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ここで「고추잡채」という別の単語が出てきます。잡채と名前は重なりますが、同じ料理ではありません。これについては後ほど改めて取り上げます。
나는 중국집에 가서 매콤한 고추잡채를 흰 빵과 같이 먹었다. (naneun jungguk-jibe gaseo maekomhan gochujapchaereul huin ppanggwa gachi meogeotda.) わたしは中華料理店に行って、ピリ辛の고추잡채を白いパンと一緒に食べた。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
「중국집(中華料理店)」「흰 빵(白いパン)」が決定的な手がかりです。ここでいう白いパンとは、韓国の中華料理店で고추잡채と一緒に出てくる、白くてふわふわの花巻(꽃빵)のこと。つまりこの文の舞台は、韓国の家庭のごちそうの席ではなく、韓国式の中華料理店なのです。
고추잡채가 맵다. (gochujapchaega maepda.) 고추잡채が辛い。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
短いけれど重要な用例です。辞書が「고추잡채가 맵다」という例文は載せていて、「잡채가 맵다」という例文は載せていない — この事実そのものが情報になっています。わたしたちの知っているあの잡채は、基本的に辛くない料理なのです。
実際の会話で見る
状況:土曜日の夕方、ジュンギョンの引っ越し祝いの日。エミリーが玄関に入るなり、台所のほうからごま油の匂いがしてくる。
ジュンギョン: 어, 왔어? 신발 아무 데나 벗어. 나 지금 손에 기름 묻어서 못 나가. お、来た? 靴はどこでも適当に脱いで。今、手が油だらけで出ていけないんだ。
エミリー: 잠깐만… 이 냄새 뭐야. 너 설마 잡채 했어? ちょっと待って……この匂い何。まさか잡채作ったの?
ジュンギョン: 했지. 집들이에 잡채 없으면 좀 섭섭하잖아. もちろん作ったよ。引っ越し祝いに잡채がないと、ちょっと物足りないでしょ。
エミリー: 야, 이거 채소 다 따로 볶아야 되는 거잖아. 몇 시간 걸렸어? ちょっと、これ野菜を全部別々に炒めないといけないやつじゃん。何時間かかったの?
ジュンギョン: 세 시간. 엄마가 전화로 계속 참견하셔서 당면을 두 번 무쳤어. 3時間。母さんが電話でずっと口を出してくるから、春雨を二回和えるはめになった。
エミリー: (한 입 먹고) …아, 됐다. 나 오늘 밥 안 먹고 잡채만 먹을래. (一口食べて)……あ、もういい。わたし今日はごはん抜きで잡채だけ食べる。
こう使うと不自然です
잡채は物の名前なので、敬語・タメ口のように相手によって形が変わることはありません。その代わり、学習者が実際によくつまずく二つの誤解を取り上げておきます。
✗ 오늘 피곤한데 간단하게 잡채나 해 먹을까?(今日は疲れたし、簡単に잡채でも作って食べようか?) ✓ 오늘 피곤한데 간단하게 김치볶음밥이나 해 먹을까?(今日は疲れたし、簡単にキムチチャーハンでも作って食べようか?) → 「간단하게(簡単に)」と잡채は並び立ちません。材料を種類ごとに別々に炒めなければならない料理なので、韓国人の耳には「簡単にカルビチムでも作ろうか?」と言っているように聞こえます。通じないわけではなく、冗談のように聞こえてしまうのです。
✗ (中華料理店で)여기요, 잡채 하나 주세요.(すみません、잡채を一つください。) ✓ (中華料理店で)여기요, 고추잡채 하나 주세요.(すみません、고추잡채を一つください。) → 韓国式の中華料理店のメニューにあるのは잡채ではなく고추잡채です。ピーマンと豚肉をピリ辛に炒め、花巻と一緒に食べる別の料理で、わたしたちの知っているあの春雨の잡채は出てきません。名前が重なることで起きる、いちばんよくある勘違いです。
状況別の活用例文
1. お客さんが来ると聞いて(嫁が夫に)
어머님 오신다는데 잡채라도 해 놓을까 (japchae-rado hae noeulkka)? お義母さんが来るんだって。잡채でも作っておこうか?
ここで注目したいのは「-라도」です。もともと「-라도」は「十分ではないけれど、せめてそれでも」という意味で、自分を低める表現なのですが、韓国人は잡채のように手間のかかる料理にもこの助詞を付けます。3時間かかる仕事を前にして「잡채라도」と言ってしまう。その謙遜こそが、この文の温度なのです。
2. 名節の翌朝、冷蔵庫を開けながら
잡채 남은 거 밥에 비벼 먹으면 진짜 맛있어 (japchae nameun geo bap-e bibyeo meogeumyeon jinjja masisseo). 残った잡채をごはんに混ぜて食べると、本当においしいよ。
잡채は、残ることまで計算に入っている料理です。一皿だけ作る人はいないので、名節の翌日にはほぼ必ずこのセリフが出てきます。冷めた잡채を温かいごはんにのせて混ぜて食べるのが王道で、それをそのままメニューにしたのが中華料理店の「잡채밥」です。
3. 食堂でメニューを選びながら(敬語)
저기요, 여기 잡채도 되나요 (japchae-do doenayo)? すみません、ここ、잡채もできますか?
「되나요?」は「売っていますか?/注文できますか?」という意味で、食堂でとてもよく使う表現です。「있나요?」より柔らかく聞こえるので、初めて入った店で使うのにぴったりです。
敬語・タメ口と似た表現
잡채そのものは名詞なので、形は変わりません。丁寧さの違いは、一緒に使う動詞のほうに出ます。目上の人にすすめるときは 잡채 좀 드세요 (japchae jom deuseyo)、友達には 잡채 좀 먹어 봐 (japchae jom meogeo bwa) となります。作る動作を言うときは「만들다」より 잡채를 무치다 (japchae-reul muchida) を使うと、ぐっと韓国人らしく聞こえます。무치다は調味料を入れて手で均等に混ぜるという意味なので、잡채の最後の工程をそのまま指す動詞なのです。
名前が似ていて混同しやすい単語を整理すると、こうなります。
| 表現 | 温度・強さ | 使う場面 |
|---|---|---|
| 잡채 (japchae) | ごちそう・真心。辛くなく、ほんのり甘い | 引っ越し祝い・名節・誕生日の食卓。韓国料理店 |
| 고추잡채 (gochujapchae) | ピリ辛で油っぽい | 韓国式の中華料理店。花巻と一緒に |
| 잡채밥 (japchaebap) | しっかり一食分 | 中華料理店でごはんの上にのせて出てくる |
| 당면 (dangmyeon) | 中立。ただの材料名 | スーパー・レシピの説明。料理名ではない |
とくに最後の行には注意が必要です。당면はさつまいもデンプンで作った透明な麺そのものを指す材料名なので、食堂で「당면 주세요」と言うと、料理ではなく材料をくださいという意味になってしまいます。
文化背景 — 食卓の真ん中に置かれる皿
韓国の食卓には、置き場所の序列があります。それぞれの前に置かれるごはんとスープがあり、真ん中に置かれてみんなが箸を伸ばす皿があります。잡채はほとんどの場合が後者で、しかもいちばん大きな皿に盛られて、ど真ん中に置かれます。
おもしろいのは、この料理の顔つきが最初から今のようだったわけではない、という点です。名前が語っているとおり、잡채のもともとの主役は麺ではなく、いろいろなナムルでした。今では잡채の象徴のように思われている透明な春雨が入るようになったのは、韓国に春雨工場ができた20世紀に入ってからのことです。つまり잡채は、名前は古いのに姿は比較的近年になって完成した料理であり、だからこそ「伝統料理」という言葉と「引っ越し祝いの定番メニュー」という言葉が同時に似合うのです。
ドラマを見ていると、この皿が登場する場面はいつも似ています。久しぶりに子どもが家に帰ってくる日、子どもの結婚相手の親(사돈)が初めて訪ねてくる日、引っ越した家に人を招いた日。セリフで説明しなくても、食卓に잡채があれば、その家が今日は客を迎えているのだと視聴者は分かります。逆に、一人暮らしの登場人物の食卓に잡채が置かれる場面はほとんどありません。一人で食べるために3時間を使う人は、なかなかいないからです。
最近はスーパーで出来合いの잡채も売っていますし、ミールキットも珍しくありません。それでも名節になると、多くの家では今でも自分の手で和えます。味の違いだけが理由ではありません。잡채を和えるための大きなボウルが台所に出ていること自体が、「今日うちに人が来る」という合図だからです。韓国語の学習者がこの単語をきちんと知っているというのは、その合図まで読めるようになる、ということなのです。
今日のクイズ
友達が一人暮らしの部屋に遊びに来ました。冷蔵庫には卵二個とキムチしかなく、二人ともお腹は空いているのに体は疲れています。このとき、いちばん似合わない セリフはどれでしょう?
① 그냥 라면이나 끓여 먹을까?(もうラーメンでも作って食べようか?) ② 김치볶음밥 해 줄게, 금방 돼.(キムチチャーハン作ってあげる、すぐできるよ。) ③ 간단하게 **잡채 (japchae)**나 해 먹자.(簡単に잡채でも作って食べよう。) ④ 귀찮은데 배달시키자.(面倒だし出前を頼もう。)
正解:③
잡채は、野菜を種類ごとに別々に炒めて、春雨を茹でて和えなければならない、いちばん手のかかる料理の部類に入ります。「간단하게(簡単に)」とはそもそも相性が合いませんし、何より卵とキムチしかない冷蔵庫では、始めることすらできません。잡채は疲れた日に済ませるための料理ではなく、人を招こうと心に決めた日に作る料理なのです。
この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。