사극 (sageuk) — 갓 (gat) と宮殿が出てきたら、韓国の人が口にするあの一言
사극
韓国ドラマを長く見ていると、いつか宮殿が映り、갓 (gat)(韓国の伝統的な帽子)をかぶった人たちが庭にひざまずき、誰かが「전하 (jeonha)」と呼びかける作品に出会います。そのとき韓国の人が、ジャンル名の代わりにぽんと投げるように口にする短い言葉があります。사극 (sageuk) です。사극とは、歴史上にあった出来事や人物をもとにして作った演劇・映画・ドラマのこと。韓国語学習者にとってこの言葉が大切な理由は単純です。Netflix の紹介文にも、友だちとのカカオトークにも、親世代の週末の夕食の会話にも、この言葉がそのまま出てくるからです。역사 드라마 (yeoksa deurama、歴史ドラマ) と説明的に言っても意味は通じますが、そんなふうに言う韓国の人はほとんどいません。
ニュアンスをひとつだけ先に押さえておきましょう。사극は褒め言葉でも見下す言葉でもない、中立的なジャンル名です。「멜로 (mello、メロ)」「스릴러 (seurilleo、スリラー)」と同じ位置に置かれる言葉なので、丁寧語にもタメ口にも乗せられますし、新聞記事にもそのまま使われます。ただ、何もつけずに「사극」とだけ言うと、聞いた人の頭にはほぼ自動的に朝鮮時代の宮殿が浮かびます。この「デフォルト」を知って使うかどうかが、自然さの分かれ目になります。
国立国語院の辞書で確かめる
まずは国の機関が出している辞書が、この言葉をどう定義しているか見てみましょう。
사극「명사」(名詞) 역사에 있던 일이나 사람을 바탕으로 만든 연극이나 영화나 드라마. (歴史上にあった出来事や人物をもとにして作った演劇・映画・ドラマ。) [en] historical drama; historical film — A play, film, or drama based on historical events or figures. [ja] しげき【史劇】・れきしげき【歴史劇】・じだいげき【時代劇】 — 歴史上の事実や人物を題材にした演劇・映画・ドラマ。 [es] telenovela histórica, serie histórica — Telenovela, película u obra teatral basada en una persona o un hecho histórico. [zh] 历史剧 — 以历史事件或人物为基础而制作的戏剧、电影或电视剧。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ポルトガル語の語釈はこの辞書に載っていないため、参考として私たちが自分で訳したものを添えます。drama histórico — peça, filme ou série baseada em fatos ou personagens históricos.(辞書の原文ではなく、独自の翻訳であることをお断りしておきます。)
定義で注目したい点が二つあります。ひとつめは、対象がドラマだけでなく演劇や映画まで含むこと。ふたつめは、「역사에 있던 일이나 사람을 바탕으로(歴史上にあった出来事や人物をもとに)」という言い方です。歴史そのままである必要はなく、もとにしてさえいればいい — あとで出てくる「퓨전 사극 (fyujeon sageuk)」はここから生まれます。
では、辞書に載っている実際の用例を見ていきましょう。
이 사극은 조선 시대를 배경으로 한 드라마다. (この사극は、朝鮮時代を舞台にしたドラマだ。) ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
いちばん基本になる文です。i sageugeun Joseon sidaereul baegyeong-euro han deuramada. 作品を一行で紹介するときの型そのまま。「A는 B를 배경으로 한 드라마다 (A-neun B-reul baegyeong-euro han deuramada)」は丸ごと覚えておくと、どんな作品の説明にも差し替えて使えます。
사극에서 늘 임금 옆에 있는 저 사람은 누구예요? (사극でいつも王様のそばにいる、あの人は誰ですか?) ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
一緒にテレビを見ながら、隣の人に尋ねる口ぶりです。丁寧語の質問なので、年の離れた家族やご近所さんと並んで見ている場面が浮かびます。学習者が実際に最初に使うことになるのは、まさにこういう種類の文です — 사극を見ていると、王のそばにいる내시 (naesi、宦官)、상궁 (sanggung、尚宮)、도승지 (doseungji、都承旨) が誰なのか、本当に気になってくるからです。
요즘 사극은 실제 역사와는 너무 거리가 먼 것 같습니다. (最近の사극は、実際の歴史とはあまりにもかけ離れている気がします。) ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ジャンルへの軽い批評です。韓国では사극が放送されるたびに「고증 (gojeung、時代考証) は合っているのか」という論争がついて回るのですが、その空気がこの一文に詰まっています。「~는 것 같습니다 (~neun geot gatseumnida)」で結んで断定を避けているところも見どころ。韓国語では、批判をこうしてひと呼吸ぶん抑えて言います。
드라마는 역사극이 재미있는 것 같아. (ドラマは역사극が面白いと思う。) ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ここでは「사극」ではなく「역사극 (yeoksageuk)」が使われています。ふたつは事実上おなじ意味で、辞書もこの二語を並べて扱っています。ただし話し言葉では、短い「사극」のほうが圧倒的によく出てきます。
이 사극은 주인공이 관가에 끌려가 문초를 당하는 장면으로 시작했다. (この사극は、主人公が役所に引き立てられて取り調べを受ける場面から始まった。) ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
あらすじをまとめる書き言葉の文です。「관가 (gwan-ga、官家=役所)」「문초 (muncho、取り調べ)」のように、사극でしか出会わない古い語彙が一緒に出てくるのが面白いところ。사극を見ていると、こういう単語がひとりでに耳にたまっていきます。それこそが、사극が韓国語学習に向いている理由でもあります。
実際の会話で見てみる
場面:土曜日の午後、景福宮の前にある韓服レンタル店。エミリーがハンガーを一枚ずつめくっている。
ジュンギョン: 뭘 그렇게 오래 골라. 아무거나 예쁜 거 입으면 되지. 何をそんなに長く選んでるの。適当に可愛いの着ればいいじゃん。
エミリー: 아니, 나 저번에 본 사극에 나온 그 옷 찾는 중이야. ちがうって、この前見た歴史ドラマに出てきた、あの服を探してるの。
ジュンギョン: 아, 왕비 나오는 거? 그거 조선 초기 배경이라 대여점엔 잘 없어. ああ、王妃が出てくるやつ? あれは朝鮮初期が舞台だから、レンタル店にはあんまり置いてないよ。
エミリー: 헐, 너 그런 것도 알아? 너 사극 안 좋아한다며. えっ、そんなことまで知ってるの? 歴史ドラマ好きじゃないって言ってたじゃん。
ジュンギョン: 안 좋아하긴. 엄마가 주말마다 틀어 놓으셔서 그냥 외워진 거야. 好きじゃないも何も。母さんが毎週末つけてるから、勝手に覚えちゃっただけ。
エミリー: 어쩐지. 그럼 오늘 가이드는 너다. どうりでね。じゃあ今日のガイドはあなたに決まり。
こう使うと不自然です
사극は相手を選ばないジャンル名なので、失礼になることはありません。そのかわり、学習者が実際につまずきやすい**「範囲の思い違い」**を二つ挙げておきます。
✗(1988年のソウルが舞台のドラマを見て)이거 완전 사극이네. (igeo wanjeon sageugine.) ✓ 이거 완전 복고다. (igeo wanjeon bokgoda.) / 이건 시대극이지 사극은 아니야. (igeon sidaegeugiji sageugeun aniya.) → 사극はふつう、朝鮮・高麗・三国時代のように近代以前を舞台にした作品に使います。1980〜90年代のような近い過去を描いた作品は「시대극 (sidaegeuk)」「복고 드라마 (bokgo deurama、レトロドラマ)」と呼びます。過去が舞台ならすべて사극、というわけではないのです。
✗(フランス革命を扱ったドラマを見てきて)나 어제 사극 봤어. (na eoje sageuk bwasseo.) ✓ 나 어제 프랑스 사극 봤어. (na eoje Peurangseu sageuk bwasseo.) → 前に何もつけない「사극」は、聞き手に自動的に韓国史、なかでも朝鮮を思い浮かべさせます。外国の歴史ものは「영국 사극 (Yeongguk sageuk)」「중국 사극 (Jungguk sageuk)」のように国名を前につけないと、会話がすれ違ってしまいます。
場面別の活用例文
1) 友だちに作品をすすめるとき 韓国の友だちに「요즘 뭐 봐? (yojeum mwo bwa?=最近なに見てる?)」と聞かれました。ジャンルから伝えると話が早く進みます。
나 요즘 사극에 빠졌어. 왕 얘기 말고 시장 사람들 얘기라 더 재밌더라. na yojeum sageuge ppajyeosseo. wang yaegi malgo sijang saramdeul yaegira deo jaemitdeora. (最近사극にハマってるんだ。王様の話じゃなくて市場の人たちの話だから、よけい面白くてさ。)
2) 韓国語が難しく聞こえる理由を説明するとき 사극を初めて見ると、字幕なしでは聞き取るのがなかなか大変です。その体験をそのまま言ってみましょう。
사극은 말투가 달라서 아직 자막 없이는 힘들어요. sageugeun maltuga dallaseo ajik jamak eopsineun himdeureoyo. (사극は話し方がちがうので、まだ字幕なしではきついです。)
3) 旅先で 宮殿や民俗村に行くと、「여기 사극 찍은 데야(ここ사극を撮ったところだよ)」という言葉を必ず耳にします。こちらから先に聞いてみるのもいいですね。
여기서 찍은 사극도 있어요? yeogiseo jjigeun sageukdo isseoyo? (ここで撮影した사극もあるんですか?)
丁寧語・タメ口と、似ている表現
사극は名詞なので、それ自体は敬意と無関係。後ろにつく述語が言葉の高さを決めます。同じ感想でも、こんなふうに分かれます。
- タメ口: 이 사극 진짜 재밌어. (i sageuk jinjja jaemisseo.)
- 丁寧語: 이 사극 정말 재미있어요. (i sageuk jeongmal jaemiisseoyo.)
- 格式体: 오랜만에 잘 만든 사극입니다. (oraenmane jal mandeun sageugimnida.)
似た言葉どうしは、意味が重なりながらも使う場所が少しずつちがいます。
| 表現 | 温度・強さ | 使う場面 |
|---|---|---|
| 사극 (sageuk) | いちばん短くて気楽な基本語 | 日常会話・記事・ポスター、どこでも |
| 역사극 (yeoksageuk) | もう少し格式があって説明的 | 文章・授業・評論。話すときは사극が自然 |
| 시대극 (sidaegeuk) | 中立、範囲がより広い | 近現代が舞台の作品まで含む。사극と区別して使う |
| 퓨전 사극 (fyujeon sageuk) | 軽くて今どきの感じ | 歴史に想像やファンタジーを混ぜた作品 |
| 대하드라마 (daeha deurama) | 重厚で壮大 | 数十話に及ぶ正統派の사극 |
文化背景 — 갓と宮殿、そして사극ことば
사극は漢字語です。사 (sa、史) は歴史、극 (geuk、劇) は演劇ですから、文字どおり「歴史劇」。だから「역사극」と意味がそっくり重なるのですが、二文字で短く口になじむ「사극」のほうが、日常語の座を取っていきました。
사극が韓国の放送で占める位置は特別です。週末の夕方に家族そろって대하드라마を見る習慣が何十年も続き、そのおかげで사극は、若い世代と親世代がいっしょに語り合える数少ないジャンルとして残りました。韓国の友だちのご両親に会ったとき、「요즘 사극 뭐 보세요?(最近どの사극をご覧になっていますか?)」と聞けば会話が途切れないのは、こういう背景があるからです。
学習者にとっていちばん面白いのは、なんといっても**사극ことば(사극 말투)**でしょう。사극には、現代韓国語には残っていない敬語表現が、お約束のように使われます。아니 되옵니다 (ani doeopnida=안 됩니다、なりません)、성은이 망극하옵니다 (seong-eun-i manggeukhaopnida=王のご恩が果てしなく大きゅうございます)、전하 (jeonha=王を呼ぶ言葉)、마마 (mama=王妃や世子などを呼ぶ言葉) といった表現です。これらは今日使う言葉ではないので、覚えて実生活で使ってはいけませんが、韓国語の敬語がどれほど細やかに発達したかを見せてくれる、生きた標本です。
最近は、考証を厳しく守る正統派の사극よりも、歴史に想像を混ぜ込んだ퓨전 사극 (fyujeon sageuk) のほうが多く作られています。辞書の定義が「역사에 있던 일이나 사람을 바탕으로(歴史上にあった出来事や人物をもとに)」と幅をもたせてあるおかげで、こうした作品も変わらず사극と呼ばれます。韓服レンタル店の前がいつも混んでいることも、韓服を着れば宮殿の入場料が無料になることも、このジャンルが生み出した風景です。
今日のクイズ
次のうち、韓国の人が「사극」と呼ぶのがいちばん不自然な作品はどれでしょう?
- 朝鮮の宮殿で繰り広げられる、王と臣下たちの物語
- 高句麗の将軍が主人公のドラマ
- 1990年代のソウルの高校生たちを描いたドラマ
- 実在した朝鮮の医女を主人公にしたドラマ
正解を見る
正解: 3番
1・2・4番はいずれも近代以前の出来事や人物をもとにしているので사극です。3番は舞台こそ過去ですが近現代なので、ふつうは「시대극」または「복고 드라마」と呼びます。過去が舞台だからといって、すべてが사극になるわけではない — 今日はこれひとつだけ持ち帰れば十分です。
この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。