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불고기 (bulgogi) — 「불」が入っているのに、どうして辛くないのでしょう

불고기

불고기 (bulgogi) とは、薄く切って味付けした牛肉や豚肉を火で焼いた、韓国の伝統料理のことです。韓国の人にとってこの単語は、メニューの一行である前に、ひとつの情景に近いものです。お客さんが来る予定の夕方、台所から醤油と砂糖の煮詰まる匂いがしてきて、フライパンの上で肉と玉ねぎがジュージューと音を立てはじめると、家族は聞かなくてもわかります。ああ、今日は 불고기 だな、と。

外国人の友達を連れていくお店を選ぶとき、韓国の人が真っ先に思い浮かべる名前も、たいてい 불고기 です。辛くない、香りが強くない、そしてお箸を初めて持つ人でも失敗しない。だから 불고기 は韓国料理の入り口のような一皿であり、お客様をもてなすときに差し出す、いちばん無難でやさしいカードなのです。

ニュアンスをひとつ押さえておきましょう。辞書には「豚肉や牛肉」と書かれていますが、ただ 불고기 (bulgogi) と言ったとき、韓国の人の頭にまず浮かぶのは牛肉です。豚肉で作る場合は、ふつう材料を頭につけて 돼지불고기 (dwaeji-bulgogi) と、別の名前で呼びます。もうひとつ、불고기 は完成した料理の名前であると同時に、その料理に使う肉そのものを指すこともあります。精肉店で 불고기감 (bulgogi-gam) と言えば、「薄切りにした肉をください」という意味になるのです。

韓国国立国語院の辞書で確認する

불고기「名詞」 얇게 썰어 양념한 돼지고기나 쇠고기를 불에 구운 한국 전통 음식. [en] bulgogi — barbequed beef: Traditional Korean food made by roasting seasoned slices of pork or beef. [ja] プルゴギ — 焼肉:薄切りして味付けした豚肉や牛肉を火にかけて焼いた韓国の伝統料理。 [es] bulgogi, asado coreano, barbacoa coreana — Plato tradicional de Corea que se prepara asando la carne de cerdo o res, previamente condimentadas y cortadas finamente. [zh] 烤牛肉,烤肉 — 韩国传统料理之一,切薄后加入作料烤制出来的猪肉或牛肉。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

ポルトガル語の語釈は、この辞書には収録されていません。ですので、次の一行は辞書からの引用ではなく、わたしたちが独自に訳したものであることをお断りしておきます。bulgogi — prato tradicional coreano feito com fatias finas de carne bovina ou suína, temperadas e grelhadas.(独自訳)

辞書に載っている実際の用例を原文のまま引きながら、それぞれどんな場面で出てきた言葉なのかを添えてみます。

저녁 반찬으로 불고기를 만들었단다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

jeonyeok banchaneuro bulgogireul mandeureotdanda.「夕飯のおかずに 불고기 を作ったのよ」。お母さんが子どもに話しかける口調です。ここで注目したいのは、불고기 を「おかず(반찬)」と呼んでいる点。韓国では 불고기 はそれ自体で一食になる料理でもありますが、ごはんと並ぶおかずの席にも、何食わぬ顔で収まってしまうのです。

여기는 불고기가 정말 맛있어. 그리고 물냉면도 강추야. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

yeogineun bulgogiga jeongmal masisseo. geurigo mullaengmyeondo gangchuya.「ここは 불고기 が本当においしいよ。あと水冷麺も超おすすめ」。友達にお店をすすめるタメ口です。불고기 と冷麺をセットで勧める組み合わせが、とても韓国的ですね。甘くて熱い肉を食べたあと、冷たい麺で口をさっぱりさせる——この順番は、今も焼肉屋さんでそのまま繰り返されています。

저녁 때 손님이 오신다고 불고기에다가 잡채까지 준비하게요? ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

jeonyeok ttae sonnimi osindago bulgogiedaga japchaekkaji junbihageyo?「夕方にお客さんが来るからって、불고기 の上にチャプチェまで用意するんですか?」。もてなしの支度をしている人を見て、少し驚いている口調です。불고기 とチャプチェが並んでいることに注目してください。この二つは韓国でお客様をもてなすとき、対のように一緒に食卓へ上がるメニューです。だからこの一文は、「相手がかなり気合いを入れている」という意味になるのです。

외국인 친구가 불고기 맛이 좋다며 엄지손가락을 곧추세워 보였다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

oegugin chinguga bulgogi masi jotdamyeo eomjisongarageul gotchuseweo boyeotda.「外国人の友達が、불고기 はおいしいと言って親指を立ててみせた」。辞書の例文にまで「外国人の友達」が登場するのが面白いところです。それだけ 불고기 は、ずっと昔から韓国の人が外国の方に最初にすすめる料理だった、ということですね。

実際の会話で見てみましょう

場面:土曜日の午後、近所のスーパーの精肉コーナー。エミリーが来週の引っ越し祝いに出す料理を選んでいるところです。

エミリー: 오빠, 삼겹살 열 명이면 몇 근 사야 돼? ねえ、サムギョプサルにするなら10人で何斤買えばいい?

ジュンギョン: 집들이에 삼겹살은 좀… 온 집에 냄새 배. 그냥 불고기 해. 引っ越し祝いにサムギョプサルはちょっと……家じゅうに匂いがつくよ。ふつうに불고기にしなよ。

エミリー: 아 맞다, 애들도 온다 그랬지. 맵지도 않고 딱이네. あ、そうだ、子どもたちも来るって言ってたよね。辛くないし、ぴったりだね。

ジュンギョン: 전날 양념에 재워 놨다가 당일엔 볶기만 하면 되고. 사장님, 이거 불고기감으로 얇게 썰어 주세요! 前の日にタレに漬けておいて、当日は炒めるだけでいいしね。すみません、これ불고기用に薄く切ってください!

エミリー: 양념은 뭐 넣어? 간장이랑 설탕만 넣으면 돼? タレには何を入れるの? 醤油と砂糖だけでいいの?

ジュンギョン: 배 하나 갈아 넣어. 그거 하나로 고기가 달라져. 梨を1個すりおろして入れるんだよ。それひとつで肉が別物になる。

こう言うと不自然です

✗(辛いものが食べられない友達に)너 매운 거 못 먹으니까 불고기는 빼자. ✓(辛いものが食べられない友達に)너 매운 거 못 먹지? 그럼 불고기 시키자. 그건 안 매워. → 불닭、불족발、불막창のように、最近の料理名の頭につく「불」は「辛い」という目印として使われています。そのため、불고기 も辛い料理だろうと学習者が推測してしまうことは、とてもよくあります。でも 불고기 の「불」は味ではなく調理法を指していて、基本の味つけは醤油と砂糖。むしろ辛いものが苦手な人にこそすすめたいメニューなのです。

✗(焼肉屋の鉄板に生のサムギョプサルをのせて)와, 이 불고기 잘 익었다. ✓ 와, 이 삼겹살 잘 익었다. / 여기 불고기도 맛있대. 하나 시켜 볼까? → 불고기 は焼肉全般を指す言葉ではありません。あらかじめタレに漬け込んだ、薄切りの肉であってはじめて 불고기 です。鉄板に生肉をのせて塩だけつけて食べるなら、それは삼겹살구이や소금구이であって、불고기 ではありません。英語の Korean BBQ をそのまま 불고기 と訳してしまうと、まさにここでズレが生じます。

場面別・使ってみましょう

場面1. 韓国人の同僚の家に夕食に招かれ、向かう途中でメッセージを送るとき

오늘 저녁 메뉴가 불고기라고 들었어요. 제가 뭐 사 갈 거 있을까요?

oneul jeonyeok menyuga bulgogirago deureosseoyo. jega mwo sa gal geo isseulkkayo?「今晩のメニューは 불고기 だと聞きました。何か買っていくものはありますか?」。メニューを知っているということ自体が、関心の表れになります。「불고기 だよ」という答えが返ってきたら、ふつうはごはんもおかずも全部そろっているという意味ですから、何を買っていくか尋ねるなら、果物か飲み物くらいが自然です。

場面2. 同行者に辛いものが苦手な人がいて、お店で注文するとき

저희 일행 중에 매운 걸 못 드시는 분이 있어서요. 불고기로 3인분 주세요.

jeohui ilhaeng junge maeun geol mot deusineun buni isseoseoyo. bulgogiro sam-inbun juseyo.「わたしたちの連れに辛いものが食べられない方がいまして。불고기 を3人前ください」。理由を先に言ってから注文をつなげる順番は、韓国語ではずっと柔らかく響きます。お肉は「皿」ではなく 인분 (inbun/人前) の単位で注文する、という点も一緒に覚えておくといいですね。

場面3. 精肉店やスーパーの精肉コーナーで

불고기감으로 얇게 썰어 주실 수 있을까요?

bulgogi-gameuro yalpge sseoreo jusil su isseulkkayo?「불고기 用に薄く切っていただけますか?」。韓国の精肉店でとてもよく使われる、実戦的な一文です。「どの肉をください」と言う代わりに「何を作るか」を伝えれば、部位も厚さも向こうが合わせてくれます。국거리로 주세요(スープ用にください)、찌개용으로 주세요(チゲ用にください)も同じ言い方です。

敬語・タメ口と、似ている表現

불고기 はモノの名前ですから、それ自体が敬語や,くだけた形に変わることはありません。代わりに、一緒に使う動詞が変わります。友達には 오늘 불고기 먹을래?(今日 불고기 食べる?)、目上の方やお客様には 오늘 불고기 드실래요? または 불고기 좀 드세요 と言います。먹다 (meokda)드시다 (deusida) に上がるこの一手を落としてしまうと、文としては合っていても、どこか不自然に聞こえてしまいます。

似たようなお肉料理と並べてみると、불고기 の立ち位置がはっきりします。

表現温度・強さ使う場面
불고기 (bulgogi)やわらかく甘め、まったく辛くないお客様の食卓・引っ越し祝い・飲み会の最初の一皿。子どもから大人まで
돼지불고기 (dwaeji-bulgogi)もう少し濃いめ。コチュジャン味も一般的定食屋のランチ、お弁当のおかず
갈비 (galbi)ワンランク格上で、値段も上両家の顔合わせ・名節・大切なもてなしの席
삼겹살 (samgyeopsal)気楽でにぎやか仕事帰りの飲み会、友達同士

文化背景 —— 名前に残っている「불」

名前を分解してみると、意味がそのまま見えてきます。불 (bul/火)고기 (gogi/肉) がくっついた合成語です。水に住む「肉」を 물고기 (mulgogi/魚) と呼ぶのと、まったく同じ作り方ですね。韓国語には、こうして材料や環境を前につけて名前をつくる習慣があります。だから初めて見る単語でも、前と後ろに分けてみれば、半分くらいは意味が推測できるのです。

불고기 は地域によって姿がずいぶん違います。ソウルでよく見るのは汁気がひたひたに残る鍋仕立てで、ごはんを混ぜて食べるのにぴったり。蔚山の彦陽(オンヤン)あたりでは、網にのせてこんがり焼き上げる作り方が有名です。同じ名前を掲げていても皿の上の姿が違うので、初めて頼んだ 불고기 が想像と違っても、間違って出てきたわけではありません。

ドラマで 불고기 が食卓に上がる場面は、たいてい決まっています。長いあいだ連絡のなかった子どもが帰ってきた夕方、初めて挨拶に来る人の前に用意された食卓、仲直りのために苦労して設けた席。どれにも共通しているのは、「もてなす気持ち」です。ですから韓国の人が 오늘 불고기 할까?(今日は 불고기 にしようか?)と尋ねるとき、それはメニューを決める言葉であると同時に、「あなたにおいしいものを食べさせたい」という言葉でもあるのです。

最近では、この名前が料理の外にも出ていきました。ハンバーガー店の불고기버거、ピザの불고기トッピングのように、甘辛い醤油ダレの味そのものを「불고기 味」と呼びます。韓国のコンビニの棚で「불고기」の文字を見かけたら、たいていは「辛くない、甘い醤油系」というサインだと読み取って大丈夫です。

今日のクイズ

辛いものが苦手な外国人の友達と韓国料理店に行きました。次のうち、いちばん自然な言い方はどれでしょう?

  1. 여기는 삼겹살이 불고기로 유명하대.
  2. 얘들아, 매운 거 못 먹지? 그럼 불고기 시키자. 그건 안 매워.
  3. 불고기는 매우니까 오늘은 빼자.

正解は2番です。1番は삼겹살と불고기を混ぜてしまっていて文として成立せず、3番は名前の頭の「불」のせいで辛いと誤解したケースです。불고기 の「불」は辛さではなく、火で焼くという調理法を指しています。

この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。