청국장 (cheonggukjang) — 匂いで怖がらせ、味で捕まえる発酵チゲ
청국장
청국장 (cheonggukjang) は、ゆでた大豆を発酵させて作るテンジャン(味噌)の一種、またはそれで煮込んだチゲのことです。韓国人の友達の家の玄関を開けたとたん、鼻のほうが先に驚くような匂いがふわっと押し寄せてくる。それなのに家主のほうは平然と食卓の支度をしている。そんなときは、台所で煮えているのはまず間違いなくチョングクチャンです。
韓国料理の中でも、第一印象と実際がこれほど違う料理はなかなかありません。匂いは人を遠ざけるのに、味は人を引き止める。だから韓国の人は、外国人の友達にチョングクチャンをすすめるとき、ほとんど同じ順番で話します。まず匂いの話を先に出しておいて、そのあとで「ひと匙だけ食べてみて」と言うのです。
チョングクチャンという言葉は、二つのものを同時に指します。一つは、ゆでた大豆を二、三日と短く発酵させた「醤(ジャン)」そのもの。スプーンですくうと糸が長く伸びて、豆粒がつぶれずにそのまま残っています。もう一つは、その醤に豆腐やキムチ、ズッキーニを入れて汁を少なめに煮込んだチゲです。食堂で 청국장 주세요 (cheonggukjang juseyo) と言えば、誰も醤を一かたまり分けてくれたりはしません。トゥッペギ(土鍋)でぐつぐつ煮えたチゲが出てきます。
同じ大豆の発酵食品でも、テンジャンとは時間の流れが違います。テンジャンは数か月から数年寝かせますが、チョングクチャンは数日あれば仕上がります。この短い発酵が強い匂いを生み、同時に豆粒の形を残します。味を語るとき韓国の人がいちばんよく使う言葉は 구수하다 (gusuhada)(香ばしくて深い味わい)で、匂いを語るときによく出てくるのは 쿰쿰하다 (kumkumhada)(少しかび臭い、こもった匂い)です。どちらも悪口ではありません。구수하다 ははっきりとした褒め言葉ですし、쿰쿰하다 は「あの匂いのことだよね?」という、むしろ親しみのこもった認め方に近いのです。
国立国語院の辞書で確認する
청국장 「名詞」 ゆでた大豆を発酵させて作ったテンジャンの一種。または、それで煮込んだチゲ。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
辞書が意味を二つに分けて書いている点に注目してみましょう。醤とチゲを一つの単語が同時に引き受けている——それがこの語の核心です。多言語の訳語も同じ構造を守っています。
[en] cheonggukjang; rich soybean paste — A type of doenjang, soybean paste, or jjigae, stew, made with it. [ja] チョングクチャン — ゆでた豆を発酵させて作ったテンジャンの一種類で、納豆に似ている。また、それで煮立てたチゲ料理。 [es] cheonggukjang — Un tipo de Doenjang hecha fermentando soyas hervidas o estofado cocido con él. [zh] 清国酱汤,清曲酱汤,臭酱汤 — 煮熟的大豆发酵而成的大酱之一;或指用其炖煮而成的汤。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ポルトガル語の訳語は辞書には載っていません。ですから次の一行は辞書からの引用ではなく、私たちが独自に訳したものであることを明記しておきます。(当サイトによる訳)cheonggukjang — um tipo de pasta de soja fermentada, ou o ensopado feito com ela.
では、辞書が一緒に載せている実際の用例を見ていきましょう。原文のまま引用し、それぞれの文がどんな場面で出てくる言葉なのかを添えます。
입안을 감치는 할머니의 청국장 맛은 누구도 따라 올 수 없다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ibaneul gamchineun halmeoniui cheonggukjang maseun nugudo ttara ol su eopda.(口の中に残る、おばあちゃんのチョングクチャンの味には誰もかなわない。)— チョングクチャンが韓国人の記憶の中でどこに置かれているかを、一文で見せてくれます。食堂の味ではなく、おばあちゃんの手の味として記憶される料理だということです。
청국장이라는 건데 냄새는 별로지만 맛은 좋아. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
cheonggukjangiraneun geonde naemsaeneun byeollojiman maseun joa.(チョングクチャンっていうんだけど、匂いはいまいちでも味はいいよ。)— 初めて食べる人にすすめるときの、典型的な言い方です。匂いをまず認めてから入るこの順番は、実際の会話でもそのまま出てきます。
집에서 청국장을 끓였더니 냄새가 지독스레 난다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
jibeseo cheonggukjangeul kkeullyeotdeoni naemsaega jidokseure nanda.(家でチョングクチャンを煮たら、ものすごい匂いがする。)— マンションでチョングクチャンを煮たことがある人なら、誰もが知っている状況です。窓を開けて換気扇を回しても、匂いは一日は残ります。
네, 청국장이 아주 별미거든요. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
ne, cheonggukjangi aju byeolmigeodeunyo.(ええ、チョングクチャンはとびきりのごちそうなんですよ。)— 敬語でお客さんにすすめている場面です。별미 (byeolmi) は「特別に美味しい食べ物」という意味で、めったにない、だからこそ嬉しい料理に使います。
나는 시골에서 직접 콩을 재배하고 수확하여 메주를 띄워 청국장을 만들었다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)
naneun sigoreseo jikjeop kongeul jaebaehago suhwakhayeo mejureul ttuiwo cheonggukjangeul mandeureotda.(私は田舎で自分で大豆を育てて収穫し、メジュを発酵させてチョングクチャンを作った。)— 豆をまくところから醤を発酵させるところまでが、一文に収まっています。띄우다 (ttuiuda) は「発酵させる」という意味の日常語で、チョングクチャンの話にはいつもついてくる動詞です。
実際の会話で見る
場面:土曜日の昼、ジュンギョンの家。チャイムを鳴らして入ってきたエミリーが、玄関で足を止めます。
エミリー: 어? 야, 이거 무슨 냄새야. 뭐 상했어? え? ちょっと、この匂い何。何か腐ってない?
ジュンギョン: 상하긴. 청국장 끓이는 중이야. 어제 엄마가 시골에서 보내 주셨어. 腐ってるわけないでしょ。チョングクチャンを煮てるところ。昨日、母が田舎から送ってくれたの。
エミリー: 아, 이게 그 냄새구나. 나 사실 청국장 처음이야. 된장찌개랑 많이 달라? ああ、これがあの匂いなんだ。実は私、チョングクチャンは初めて。テンジャンチゲとはだいぶ違うの?
ジュンギョン: 훨씬 구수해. 냄새만 넘기면 밥 두 공기야. ずっと香ばしいよ。匂いさえ乗り越えれば、ご飯二杯はいける。
エミリー: 알았어, 딱 한 숟갈만. …어? 어어? 이거 왜 이렇게 맛있어? わかった、ひと匙だけね。…え? えぇ? これ、どうしてこんなに美味しいの?
ジュンギョン: 거봐. 청국장은 냄새로 겁주고 맛으로 잡는 거야. ほらね。チョングクチャンは匂いで怖がらせて、味で捕まえるんだよ。
こう使うと不自然です
✗(初対面の目上の方に)어르신, 오늘 청국장 냄새 나세요.(ご老人、今日はチョングクチャンの匂いがしますね。) ✓(親しい友達に)야, 너한테서 청국장 냄새 나. 어제 뭐 먹었어?(ねえ、あんたチョングクチャンの匂いがするよ。昨日何食べたの?) → 韓国で「청국장 냄새 난다」は、料理の話ではなく体臭や足の匂いをからかう冗談としてのほうがずっとよく使われます。親しい間柄でだけ通じるふざけ方で、初対面の人や目上の人に使えば、そのまま失礼になります。
✗ 청국장은 한국식 낫토니까 밥에 그냥 비벼 먹으면 돼요.(チョングクチャンは韓国式の納豆だから、ご飯に混ぜて食べればいいですよ。) ✓ 청국장은 보통 찌개로 끓여 먹어요. 낫토처럼 그대로 먹지는 않아요.(チョングクチャンはふつうチゲにして食べます。納豆のようにそのままは食べません。) → どちらもゆでた豆を発酵させた食品なので、糸を引く見た目はよく似ています。ただし納豆は発酵したままの状態でご飯にのせて食べるのに対し、チョングクチャンは塩とにんにく、粉唐辛子を加えてつぶしてから、豆腐やキムチと一緒に煮て熱いチゲとして出します。「韓国式の納豆」と紹介してしまうと、食卓に上がってくる姿の時点で話が食い違ってしまいます。
場面別・使える例文
① ペッパン屋(定食屋)で注文するとき お昼どき、同僚と二人で入って席につきます。メニューをじっくり見る必要もないお店です。
여기 청국장 정식 둘이요. (yeogi cheonggukjang jeongsik duriyo.)(チョングクチャン定食を二つお願いします。) 食堂ではこのひと言で、ご飯、チョングクチャンのトゥッペギ、ナムル数種類が一緒に出てきます。정식 (jeongsik) は、おかずのついた一膳の献立という意味です。
② 家で煮る直前に 週末の午後、台所で鍋を火にかけながら、リビングにいる家族に先に知らせます。
나 청국장 끓일 거니까 창문 좀 열어 줘. (na cheonggukjang kkeullil geonikka changmun jom yeoreo jwo.)(チョングクチャン煮るから、窓ちょっと開けて。) チョングクチャンを煮る前にまず窓を開けるのは、韓国の家ではほとんど儀式のようなものです。匂いが服やカーテンに一日中残ってしまうからです。
③ 初めて食べる人にすすめるとき 外国人の友達の前にトゥッペギを押し出しながら言うひと言。
냄새는 좀 세지만 한번 먹어 봐. 진짜 구수해. (naemsaeneun jom sejiman hanbeon meogeo bwa. jinjja gusuhae.)(匂いはちょっと強いけど、一度食べてみて。ほんとに香ばしいから。) 匂いを隠さず先に伝えるのが、この料理をすすめるときの礼儀です。隠しておいてバレたら、相手は二度とスプーンを取ってくれません。
敬語・タメ口と似た表現
チョングクチャンは物の名前なので、単語そのものが高くなったり低くなったりはしません。代わりに、一緒に使う動詞が場を決めます。目上の人には 청국장 드셔 보셨어요? (cheonggukjang deusyeo bosyeosseoyo?)(チョングクチャンを召し上がったことはありますか?)、友達には 청국장 먹어 봤어? (cheonggukjang meogeo bwasseo?)(チョングクチャン食べたことある?)となります。年配の方にすすめるときは「청국장 좋아하세요?」(お好きですか?)よりも「청국장 드실 줄 아세요?」(召し上がれますか=食べ慣れていらっしゃいますか?)のほうが自然な場面もあります。この料理は、好きかどうか以前に「食べられるかどうか」をまず尋ねる料理だからです。
| 表現 | 温度・強さ | 使う場面 |
|---|---|---|
| 청국장 (cheonggukjang) | 匂いも味もいちばん強い。香ばしさが濃い | ペッパン屋・家庭料理。格式ばった接待の席にはあまり出さない |
| 청국장찌개 (cheonggukjangjjigae) | 同じ料理だが、意味がより明確になる | 醤ではなくチゲのことだとはっきり言いたいとき |
| 된장찌개 (doenjangjjigae) | 穏やかで無難 | どこでも。韓国料理が初めての人には安全な選択 |
| 낫토 (natto) | 糸を引くのは似ているが、匂いと食べ方が違う | 日本の朝の食卓。加熱せずそのまま食べる |
文化背景 — 匂いが先に扉を開ける料理
チョングクチャンは、昔から冬の料理でした。ゆでた大豆を稲わらで包んで、オンドルの暖かい場所に置いておけば、数日で発酵します。数か月待たなければならないテンジャンと違い、急ぎのときにさっと作れた——その点がこの料理の性格を作りました。漢字では淸麴醬などと書かれてきましたが、名前の由来については諸説あり、定説はありません。確かなのは、作るのに長い時間がかからないという事実だけです。
ドラマでチョングクチャンが登場する場面は、ほぼ決まっています。華やかなレストランではなく、田舎の家の縁側、古びたペッパン屋、母が整えた食卓です。都会で疲れ果てた登場人物が故郷に帰り、食卓の前に座る場面によく置かれますし、匂いに鼻をつまんでいた人物が結局ご飯を二膳평らげることで、心がほどけたことを見せたりもします。この料理が画面の中で担う役割は、味の自慢ではなく「家に帰ってきた」という合図に近いのです。
今日でもチョングクチャンは、健康食というイメージが強く残っています。発酵食品だという理由で年配の方が特に好み、食堂でも体をいたわりたい日の選択肢に挙がります。その一方で、匂いのせいで職場の近くでのランチには少しためらう料理でもあります。午後に会議がある日には、同僚同士で「今日はチョングクチャンじゃなくて別のものにしよう」という言葉が実際に交わされます。好きなのに、場を選んで食べる料理——それが今の韓国におけるチョングクチャンの位置です。
今日のクイズ
韓国人の友達が、チョングクチャンを初めて食べるあなたの前にトゥッペギを置いてくれました。では逆に、あなたが別の外国人の友達にこの料理をすすめるとしたら、次のうちいちばん自然な言い方はどれでしょう?
- 이거 낫토니까 밥에 그냥 비벼 먹어.(これ納豆だから、ご飯に混ぜて食べて。)
- 냄새는 좀 세지만 한번 먹어 봐. 진짜 구수해.(匂いはちょっと強いけど、一度食べてみて。ほんとに香ばしいから。)
- 어? 너한테서 청국장 냄새 나는데?(あれ? 君からチョングクチャンの匂いがするんだけど?)
正解は 2番 です。匂いをまず認めたうえで味をすすめる、その順番がこの料理を紹介するときの韓国式の礼儀です。1番はチョングクチャンを納豆と同じものだと誤って紹介しているうえ、食べ方まで間違っています。3番は料理の話ではなく体臭をからかう冗談なので、初対面の間柄では失礼になります。
この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。