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어르신 (eoreusin) — 知らない年配の方を呼ぶとき、韓国人が実際に使う言葉

어르신

仕事帰りの地下鉄で席を譲るとき、病院の受付でお名前をうかがうとき、友達のお父さんの近況をたずねるとき — この三つの場面で、韓国人の口から同じように出てくる言葉が一つあります。어르신 (eoreusin) は「他人の父親、または父親の友人やそれより年上の人を敬っていう語」という意味です。年配の方を礼儀正しく呼んだり、話題にしたりするときに使う、いまの韓国でいちばん無難で安全な呼び方です。教科書ではたいてい 할아버지 (harabeoji)할머니 (halmeoni) を先に習いますが、いざ道で知らない年配の方に声をかけなければならない場面で実際に口をついて出るのは、ほとんど 어르신 (eoreusin) のほうです。

この言葉の強みは、二つあります。一つめは、性別を選ばないことです。할아버지・할머니 は相手の性別を先に決めてから呼ぶ言葉ですが、어르신 は男女どちらにも同じように使えます。地下鉄のドアが開いて誰が乗ってきても、「어르신, 여기 앉으세요 (eoreusin, yeogi anjeuseyo)」の一言で済みます。二つめは、ほどよい距離があることです。할아버지・할머니 が家族の内側にある温かい言葉だとすれば、어르신 は一歩下がったところにある丁寧さです。見知らぬ方に使いやすい理由は、まさにこの距離感にあります。孫でもない自分が知らない方を「할머니」と呼べば馴れ馴れしさになりますが、「어르신」と呼べば礼儀になるのです。

文法的には、敬語のパーツとひとそろいで動きます。主語の位置には 어르신께서 (eoreusinkkeseo)、何かを差し上げる相手の位置には 어르신께 (eoreusinkke)、述語には尊敬の -시- (-si-) を入れます。複数形は 어르신들 (eoreusindeul) で、役所のお知らせやニュースの字幕でも、この形のまま目にすることになります。

国立国語院の辞典で確かめる

国立国語院『韓国語基礎辞典』は、この言葉の意味を二つに分けて載せています。

어르신「名詞」 1.(敬っていう語)他人の父親。 [en] your father — (polite form) Another person’s father. [ja] ちちご【父御】。そんぷ【尊父】 — 他人の父親を敬っていう語。 [es] señor — (EXPRESIÓN DE RESPETO) Padre de otra persona. [zh] 令尊 — (敬语)他人的父亲。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

어르신「名詞」 2.(敬っていう語)父親の友人や、それより目上の年長者。 [en] Sir — (polite form) One’s father’s friend or an elderly person older than him. [ja] おとしより【御年寄り】。おじいさん【御爺さん】 — 父の友達や、それより年上の人を敬っていう語。 [es] señor, tío — (EXPRESIÓN DE RESPETO) Respecto de alguien, persona de la misma edad o mayor que su padre [zh] 老人家,老伯,尊长 — (敬语)父亲的朋友或比父亲年长的长辈。 ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

ポルトガル語の語釈は上記の辞典には収録されていないため、以下は私たちが独自に訳したものです(自主翻訳): senhor — (forma de tratamento respeitosa) o pai de outra pessoa; ou um amigo do pai, ou uma pessoa mais velha do que ele.

二つの意味を並べてみると、この言葉の軸が見えてきます。基準点は**「父親」**です。他人の父親、そして父親と同年代かそれより上の人 — つまり「自分の親の世代より上」が 어르신 の範囲です。ですからこの言葉は、単に「年をとった人」を指すのではありません。世代の位置を指し示す言葉なのです。

辞典に載っている実際の用例を、そのまま見てみましょう。

한복을 입은 어르신께서는 피리 반주에 전통 가곡을 부르셨다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

呼びかけの言葉ではなく、話題にする言葉として使われた例です。어르신께서 (eoreusinkkeseo)부르셨다 (bureusyeotda) のように、主格の助詞と述語の敬語が文の最後まで一緒に進みます。어르신 を主語にしておきながら「불렀다」で終えてしまうと、その瞬間に文が崩れてしまいます。

어르신을 보시면 가친께서 몹시 반가워하실 겁니다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

学習者にとっていちばん値打ちのある例文です。ここでの 어르신 はいま話を聞いている相手(父親の友人にあたる方)で、가친 (gachin) は他人に向かって自分の父親をいうときの言葉です。よその年長者は 어르신、自分の父親は 가친 — この二つの言葉が、一つの文の中できっちり役割を分け合っています。

지하철에서 어르신에게 자리를 양보하지 않는 젊은 사람들이 많은 것 같아. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

文末が「같아」というタメ口なのに、어르신 はそのままです。友達同士で気楽におしゃべりしている場でも、話題にのぼった年配の方をぞんざいには呼ばない、ということですね。어르신 は話し方に関係なく保たれる敬語なのです。

우리 마을에서는 올해부터 어르신들을 위한 경로 식당을 운영하기로 결정했다. ── 韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr)

複数形の 어르신들 (eoreusindeul) が、行政・公共文書の文体で使われた例です。実際、韓国の自治体は政策の名前に「노인」ではなく「어르신」を入れています。この例文に出てくる 경로 식당 (gyeongno sikdang) のように、地域単位で高齢の方に食事を提供する事業が全国にあります。

実際の会話で見る

場面:仕事帰りの地下鉄6号線。ぎゅうぎゅうに混んでいるところへ、杖をついたおばあさんが一人、いま乗ってきたところ。

エミリー: 준경아, 저기 어르신 타셨어. 나 일어날게. ジュンギョン、あそこに年配の方が乗ってきたよ。私、立つね。

ジュンギョン: 어, 나도 일어날까? 아니다, 한 자리면 되지. お、僕も立とうか? いや、一席あれば十分だよね。

エミリー: (일어나며) 어르신, 여기 앉으세요. (立ち上がりながら)どうぞ、こちらにお掛けください。

ジュンギョン: 야, 너 방금 “할머니” 안 하고 “어르신” 했다? 그거 진짜 자연스러웠어. おい、いま「할머니」じゃなくて「어르신」って言ったよね? すごく自然だったよ。

エミリー: 처음엔 나도 “할머니” 했지. 근데 모르는 분한테 그러니까 좀 훅 들어가는 느낌이더라고. 最初は私も「할머니」って言ってたの。でも知らない方に使うと、なんだかぐいっと距離を詰める感じがして。

ジュンギョン: 맞아. 밖에선 그냥 어르신이 제일 안전해. そうそう。外ではやっぱり「어르신」がいちばん安全だよ。

こう使うと不自然です

✗(友達に)우리 집 어르신이 요즘 등산에 빠지셨어. ✓(友達に)우리 아버지가 요즘 등산에 빠지셨어. → 어르신 は他人の父親を高める言葉です。自分の父親を人に紹介するときに使うと、自分の家族を自分で持ち上げる形になり、聞いている人が一瞬「あれ?」となってしまいます。外で自分の父親をいうときは 아버지 (abeoji)、あらたまった場では 가친 (gachin) です。

✗(会議室で部長を紹介しながら)이분이 저희 팀 어르신이세요. ✓(会議室で部長を紹介しながら)이분이 저희 팀 부장님이세요. → 職場では年齢ではなく役職で呼びます。五十歳の上司に 어르신 を付けると、敬ったことにはならず「お年寄りの方」と名指ししたことになり、丁寧さがそのまま失礼にひっくり返ってしまいます。어르신 はおおむね、役職のない関係で、親の世代より上の方に使う言葉です。

場面別の活用例文

1. 病院の受付で — 受付の職員が、年配の患者さんに書類を差し出す場面。名前を知らない状態で相手に呼びかけるとき、어르신 ほど安全な言葉はありません。

어르신, 여기 성함이랑 생년월일만 적어 주시겠어요? (eoreusin, yeogi seongham-irang saengnyeonworil-man jeogeo jusigesseoyo?) 어르신、こちらにお名前と生年月日だけご記入いただけますか?

2. 道をたずねるとき — 知らない町で迷って、ベンチに座っている方に声をかける場面。韓国では、話しかける前にまず呼びかけの言葉を投げるほうが自然です。

어르신, 실례지만 이 근처에 우체국이 어디 있을까요? (eoreusin, sillyejiman i geuncheo-e ucheguk-i eodi isseulkkayo?)

3. 友達のお父さんの近況をたずねるとき — 辞典の意味1が生きてくる場面です。友達にそのお父さんの話を持ち出すとき、어르신 を使えば一気に礼儀正しい文になります。

어르신께서는 요즘 건강하시지? (eoreusinkkeseoneun yojeum geonganghasiji?) 友達に投げかけるタメ口の文なのに、어르신 と -시- はしっかり生きたままです。

敬語・タメ口と、似た表現

表現温度・強さ使う場面
어르신 (eoreusin)丁寧で、距離のある敬い方知らない年配の方、友達の親。病院・役所・地下鉄
할아버지 (harabeoji) / 할머니 (halmeoni)温かく私的で、近い実際の祖父母、長く知っている近所の年長者
노인 (noin)中立的な分類語で、冷たい記事・統計・政策文書。面と向かって呼ぶと失礼
어른 (eoreun)広くて中立的子どもと対比した大人全般。呼びかけには使わない
선생님 (seonsaengnim)敬意があり、年齢を問わない年齢を測りかねるときの万能の呼び方

いちばんよく混同されるのが 어르신노인 の組み合わせです。意味は重なりますが、居場所が正反対です。노인 は人をひとまとまりに分類する言葉なので、文書には合っていても、面と向かって「노인분」と呼べば相手は表情を固くしてしまいます。어르신 は逆に、人を一人ひとり高める言葉なので、文書にも使われるし、呼びかけにも使えるのです。

文化背景 — 席を譲る国

어르신 は 어른 (eoreun) と同じ根を持つ言葉で、そこに敬いの響きが重なって固まった形です。ですからこの単語には、はじめから「自分より上の世代」という感覚が埋め込まれています。

韓国の地下鉄には各車両の端に「노약자석 (noyakjaseok)」と呼ばれる優先席があり、空いていても若い人はあまり座りません。座っていても 어르신 が乗ってこられたら、反射的に立ち上がります。外国人学習者が韓国での生活でいちばん最初に体感する文化は、たいていこの場面です。辞典の例文「지하철에서 어르신에게 자리를 양보하지 않는 젊은 사람들이 많은 것 같아」は、そのまま現実の会話でもあるわけです。

行政の言葉づかいの中でも、この単語の地位は揺るぎません。ソウルをはじめ多くの自治体が、高齢者向け事業の名前に「노인」ではなく「어르신」を使っています。어르신 교통카드(高齢者向け交通カード)、어르신 돌봄(高齢者ケア)、そして辞典の例文に出てきた 경로 식당 まで — 公共の言葉が、人の呼び方をまるごと変えてしまった例です。町ごとにある 경로당 (gyeongnodang)(高齢者の集会所)が、その舞台になります。辞典の例文のように、어르신들 が集まって 사물놀이 (samullori) を習うこともありますし、夏になればエアコンの効いた 경로당 が町内の避暑地になります。

ドラマでも、この温度はそのままです。『椿の花咲く頃』(KBS2, 2019) の옹산(オンサン)市場や、『私たちのブルース』(tvN, 2022) の済州の漁村では、若い登場人物たちが市場の商人の 어르신들 に必ず敬語を使い、名前ではなく呼び名で呼びかけます。韓国ドラマを字幕なしで観られるようになると、登場人物どうしの関係が、セリフの内容よりも先に呼び名ひとつから見えてくることに気づくはずです。

今日のクイズ

友達の家に遊びに行ったところ、玄関で友達のお父さんと出くわしました。なんとあいさつするのがいちばん自然でしょうか?

① 할아버지, 안녕하세요. ② 어르신, 안녕하세요. 저 준경이 친구 에밀리예요. ③ 노인분, 안녕하세요. ④ 저희 어르신, 안녕하세요.

正解を見る

正解: ②

①は友達のお父さんを祖父の世代へ一段上げてしまうので、失礼になります。③の 노인 は人を分類する言葉なので、面と向かって呼ぶ呼称としては使いません。④は「저희」を付けたことで、他人の父親を自分の身内にしてしまっています。②のように 어르신 と呼びかけて、自分が誰なのかを名乗るのがいちばん自然です。

この記事の語釈と例文は、韓国国立国語院『韓国語基礎辞典』(krdict.korean.go.kr) から引用しました。当該部分(翻訳を含む)は CC BY-SA 2.0 KR ライセンスのもとで利用・配布されます。